オスカー俳優でありながらも出演作品を選ばず様々なジャンルと役柄の映画に出演し続けているニコラス・ケイジ。
今回は愛する者をカルト集団に惨殺され、壮絶な復讐に乗り出す主人公をニコラス・ケイジが怪演するバイオレンス・スリラー『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のあらすじとネタバレ、感想を特集しますので最後までお付き合いください。
Contents
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』の作品情報
タイトル:マンディ 地獄のロード・ウォリアー
原題:Mandy
監督:パノス・コスマトス
脚本:パノス・コスマトス /アーロン・スチュワート=アン
製作:エイドリアン・ポリトウスキー /マルタン・メッツ /ネイト・ボロティン /ダニエル・ノア /ジョシュ・C・ウォーラー /イライジャ・ウッド
公開:2018年9月14日(アメリカ)、2018年11月10日(日本)
出演:ニコラス・ケイジ/アンドレア・ライズボロー/ライナス・ローチ/ネッド・デネヒー/オルウェン・フエレ/リチャード・ブレイク/ビル・デューク など
監督を務めるのは、シルヴェスター・スタローン出演『ランボー/怒りの脱出』『コブラ』の監督であるジョージ・P・コスマトスを父にもつパノス・コスマトス。製作には『ロード・オブ・ザ・リング』のイライジャ・ウッドが名を連ねています。
音楽は『博士と彼女のセオリー』などを手掛け、2018年に亡くなったヨハン・ヨハンソンが担当しています。
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のキャスト
主演のニコラス・ケイジのほかには、悲劇のヒロイン役には『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のアンドレア・ライズボロー、悪役のカルト軍団リーダー役には『バットマン・ビギンズ』でクリスチャン・ベール演じる主人公ブルース・ウェインの父親役を演じたライナス・ローチが参加しています。
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のあらすじ・ネタバレ
穏やかな日々
映画は下記のメッセージとキング・クリムゾンの「STARLESS」で幕を開ける。
「もし私が死んだら地中深くに埋めてほしい。足元にはスピーカーを、頭にはヘッドホンを着けて、そしてロックを流してほしい・・・」
1983年、アメリカ・コロラド州シャドーマウンテン。
中年男のレッド・ミラー(ニコラス・ケイジ)はこの地で林業に就いていた。
薄暗いうちからチェンソーで材木を切り倒すレッド。
ひと仕事を終えると同僚たちと共に迎えのヘリコプターに乗って帰路につくのだった。
車に乗り換えたレッドは、ポルノ根絶を訴える保守派の演説を流すラジオを消し、最愛の妻マンディ・ブルーム(アンドレア・ライズボロー)の待つ我が家へと辿り着いた。
アーティストであるマンディはちょうど“ジャングルにある寺院”の官能的な絵画を描いている最中だったのである。
その夜、レッドとマンディは好きな惑星の話題で静かに盛り上がっていた。
夜空には怪しげな赤いオーロラが浮かび上がっていたのだ。
翌日、レッドとマンディは家の近くのクリスタル湖でボート遊びに興じ、夜は湖畔で焚き木を燃やして過ごすのだった。
マンディはなぜか物憂げな表情を浮かべていた。
ムクドリ
マンディは森の奥深くを彷徨っていた。
やがてマンディは、森の草原に何やら野生動物の子供の死骸を見つけたのである。
マンディの目からは思わず涙がこぼれていた。
気が付くと、マンディはレッドと一緒に暗い部屋で白黒のノイズしか映らないテレビを見ていた。
レッドはどうやら悪夢を見ていたようだが、内容については覚えていなかったのだ。
レッドは別の土地に引っ越そうと考えていたが、この家も周囲の自然も気に入っているマンディは頑なにここに残りたいと言うのだった。
マンディは“ムクドリ”についての話を始めた。
マンディがまだ少女だった頃、近所ではムクドリが飛び交っており、彼女はそれを可愛がっていたのだが、マンディの父はチェリーの実を盗られるためムクドリを嫌っていたのである。
ある日、マンディが近所の子供たちと遊んでいた時、彼女の父は枕カバーとバールを持って現れ、子供たちを集めて枕カバーの中身を見せたのだ。
それはムクドリのヒナであり、マンディの父は「これから殺し方を見せてやる」といって、バールをヒナの上に振り下ろしたのであった。
さらにマンディの父は子供たちにバールを渡し、順番にムクドリを殺させたのだが、マンディは自分の番の時に逃げ出したのだった・・・。
話が終わると、レッドはマンディを優しく受け止めたのである。
カルト集団「新たな夜明けの子供たち」
マンディは「悪魔の探究者」という本を読み始めた。
深紅の空の下、古代の火山の岩山に囲まれ、哀れな魔法使いが悪魔の身体に手を入れたのだ。
体内には氷のように冷たいガラスのようなものがあったのである。。
真っ赤な血の色をした太陽の下、悪魔の肉にまみれた拳がゆっくりガラスを引き抜くと、それは内側から光り出すのだった。
ほのかなエメラルドの輝きが不思議に絶え間なく・・・。
本を読み終えたマンディは、まるで本の世界のように全てが赤1色に染まるなか、煙草を吸いながら森を彷徨っていた。
そこに1台のワンボックスカーが通りがかったのである。
ワンボックスカーにはジェレマイア・サンド(ライナス・ローチ)率いるカルト集団「新たな夜明けの子供たち」のメンバーらが乗り込んでいた。
ジェレマイアはすれ違ったマンディに一目で惹かれるのだった。
集団の施設に戻ったジェレマイアはすっかりマンディの魅力に憑りつかれて見悶えてしまい、側近のマザー・マルレーネ(オルエン・フエレ)に弟子のブラザー・スワン(ネッド・デネヒー)を呼ばせると、マンディを連れてくるよう命じたのだ。
ジェレマイアは怪しげな石で出来た“アブラクサスの角笛”と、生け贄として太った役立たずのメンバー1名を信頼のおけるスワンに託し、弟子のシスター・ルーシー(ライン・ピレット)を招集するよう命じたのである。
悪魔のバイカー集団
マルレーネは小さな商店でレジ係のアルバイトをしているマンディに客を装って近づき、彼女がクリスタル湖の近くに住んでいることを突き止めた。
その夜、スワンはアブラクサスの角笛を吹き、しばらく待機していると、夜霧に紛れて3台のバイクに乗ったグロテスクな男たちが現れたのだ。
彼らは悪魔のバイカーギャング“ブラック・スカルズ”である。
スワンは血を求めるブラック・スカルズの3人を引き連れ、レッドとマンディの家に忍び寄るのだった。
その頃、レッドとマンディはテレビ映画を観終えて就寝しようとしていた。
スワンとブラック・スカルズは二人の寝室に現れて拘束、二人の目の前であの太ったメンバーを生け贄として血祭りにあげたのである。
マンディの最期
夜が明け、マレーネとルーシーはマンディに「大丈夫、夫は生きているわ。我々の言う通りにすればね。あなたは特別らしいわ、このクズ女が」と罵り、マンディの目に怪しげな薬をたらすと、おまけと称して彼女の首筋に大きな羽アリのような昆虫の針を刺し、トリップ状態にさせてから集団の施設へと連れて行ったのだ。
マンディの目の前に現れたジェレマイアは「お騒がせしてすまない。だが、あの道で初めて君を見た時から、君は私に呼びかけていたのだよ。私を見たまえ」と言うと自らのレコードを聴かせ、神の愛を表現するとのたまいながら延々と自らの教義の正当性を主張してきたのである。
スワンら弟子たちが見守るなか、ジェレマイアは「マンディ、君は特別な存在だ。共にもっと特別な存在になろうではないか」と言うと下半身を露出させて性行為を求めてきたのだが、マンディはジェレマイアの歌を酷評すると狂ったかのように大声で笑いだすのだった。
これにジェレマイアは侮辱されたとばかりに怒りを露わにし、弟子たちに「黙れ!私を見るな!」と怒鳴り散らしたのだ。
ジェレマイアは「神よ、私は何をすれば・・・」と呟いたあと、両手を縛られたレッドの前にルーシーとスワンを伴って現れ、「お前とあの醜い娼婦は愛し合っているつもりか。私が愛というものを見せてやろう」とルーシーに拳銃を渡してロシアンルーレットをさせたのである。
ジェレマイアはレッドを穢れたブタだと蔑み、スワンから差し出された“汚れた刃”なる短剣をレッドの脇腹に突き立てた。
そしてジェレマイアは“火の浄化”と称して袋詰めにしたマンディを吊し上げ、レッドの目の前でマンディに油をかけて火を放ったのだ。
スワンが「罪深き娼婦ほどよく燃える」と罵るなか、マンディは生きたまま燃やされていく。
声にならない絶叫をあげるレッドの目には、悶え苦しむマンディを嘲笑う集団のメンバーらの姿が焼き付くのだった。
「狂った悪魔を狩る!」
絶望するレッドを尻目に、ジェレマイアたちは数台の車に分乗して立ち去って行った。
自ら拘束を解いたレッドは、燃え尽きて灰になったマンディの変わり果てた姿を見つめていたのである。
施設内に入ったレッドはつけっぱなしのテレビを見ながら気を失うが、マンディが朽ち果てていく姿(この場面はアニメーション)を見てハッと目を覚まし、部屋の中からウォッカを見つけて飲み干しながら嗚咽するのだった。
夜が明け、レッドは友人のカルザーズ(ビル・デューク)が暮らすトレーラーハウスを訪れ、彼に預けていたクロスボウを持ち出そうとした。
何に使うのか問うカルザーズにレッドは「狩りさ。妻を殺した狂った悪魔を狩るんだ」と答えたのである。
カルザーズはレッドが口走った“ブラック・スカルズ”の言葉に反応、その正体は何者かがLSDを与えた狂人である可能性を告げ、レッドに勝ち目はないと警告するのだった。
ブラック・スカルズを狩れ!
復讐に燃えるレッドは自ら斧を鋳造、ブラック・スカルズの現れそうな林道に待ち構えると、早速ブラック・スカルズのバイカーのひとりがバイクに乗ってやってきた。
レッドはクロスボウでバイカーを狙い撃ち、車で猛スピードで突っ込んで撥ね殺すのだが、車は銃撃を受けて大きく横転、レッドは気を失ってしまったのだ。
もがき苦しむマンディの悪夢(アニメーション)を見たレッドが目を覚ますと、右腕は手錠で拘束され、左手は釘で床に打ち付けられていた。
レッドはブラック・スカルズのアジトに連れて行かれたのである。
レッドはバイカーから拷問を受けるのだが、手錠を繋ぎ止めている配管が脆く朽ち果てる寸前であることを見切ったレッドは「この醜いナルシスト野郎!」と叫びながら配管を引きちぎり、バイカーを殴って床下に突き落とすのだった。
左手の釘を引き抜いたレッドはカッターナイフと防弾チョッキを見つけ、ドラッグをキメながらアダルトビデオを鑑賞している最後のひとりに襲い掛かった。
返り血を浴びながらも何とか仕留めたレッドに、床下から這い上がったバイカーが発砲してきたのだ。
レッドは台所の包丁でバイカーを刺し殺し、ガラスの破片で床に散らばったドラッグを拾い集めて吸い、奪われていた武器を取り戻すと、怪しげな瓶に入っていた強烈なドラッグを試しに使うのだった。
その瞬間、レッドは自らの皮膚が溶けていく幻覚に襲われたのである。
ジェレマイアを追え!
レッドは燃え盛る車の前に佇む一人の怪しげな男を発見した。
どうやらブラック・スカルズの仲間のようだ。
レッドはその男をクロスボウで撃つも、男は何一つ痛みすら感じない様子だった。
レッドは斧を振りかざして男に襲い掛かり、取っ組み合いの激闘となるのだが、男は「彼女は今も燃えている・・・」と呟くのみだった。
レッドは男に火を点け、斧で首を斬り落とすと、落ちていた煙草を拾って吸うのだった。
レッドはブラック・スカルズにドラッグを与えた人物ザ・ケミスト(リチャード・ブレイク)の研究施設を訪れた。
ケミストは檻のトラを放ってレッドを牽制するのだが、その表情からレッドの状況を読み取り、ジェレマイアの一味がこの場から北にある採石場に潜伏していると教えてくれたのである。
ブラック・スカルズから奪ったバギーで狭い坑道を駆け抜け、採石場に辿り着いたレッドだったが、バギーがぬかるみにはまって動けなくなってしまったのだ。
仕方なく徒歩でジェレマイア一味の潜伏先を目指したレッドは疲れ果ててその場に寝込み、その際にマンディが悪魔の体内からエメラルドグリーンに輝く物質を取り出す夢を見るのだった。
採石場の死闘
やがて採石場の中に古く小さな教会と、その周りにジェレマイア一味の姿を発見したレッドは、教会に向かう途中でスワンとルーシーの姿を発見したのだ。
レッドは「マンディはよく燃えた。そう思わんか?」と減らず口を叩くスワンの口に斧を突き刺して殺害、ただしあの時ただひとりだけ涙を流していたルーシーだけは見逃すことにしたのである。
続いてレッドは弟子の一人に斧を投げつけて殺害すると、近くのチェンソーを奪ってもう一人の弟子と対峙したのだが、相手はより刃の長いチェンソーを持っていた。
激闘の末に追い詰められたレッドは、近くのチェーンを弟子の首に巻き付け、回転するチェンソーに巻き込ませてとどめを刺すのだった。
教会に辿り着いたレッドは地下室への秘密の出入り口を見つけ、通路を奥へと突き進み、やがて地下の礼拝堂でマルレーネを見つけたのである。
レッドは「ジェレマイアが今まで経験してきた中で私とのセックスが最高だった」というマルレーネを殺し、地下の秘密部屋に潜んでいたジェレマイアにマルレーネの首を投げつけたのだ。
レッドは最後まで悪あがきをするジェレマイアの頭を掴み、ありったけの力で頭蓋骨を打ち砕いて殺害した。
レッドはライターを取り出すとジェレマイアの死体に火を放ち、そのまま燃え盛る教会を後にするのだった。
一味の車を奪ったレッドの脳裏には初めてマンディと出会った日のことが走馬灯のようによぎり、助手席に今でも生きているかのようなマンディの幻を垣間見たのである。
レッドは赤く光る月の下、ひたすら地獄絵図のような荒野をひた走るのだった。
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』の感想とまとめ
アカデミー賞の栄冠にも輝く名優でありながら出演作を選ばず(過去に浪費癖から背負った金銭トラブルを解決するためとはいえ)、巨額の製作費を投じた超大作から低予算のB級映画まで幅広く出演し続け、これまでに100をも超える役柄を演じてきたニコラス・ケイジ。(2018年でも本作含め何と6作品に出演しています)
最近では同じくバイオレンス・スリラー作品である『マッド・ダディ』(2018年公開)でもブチ切れたかのような怪演を見せたニコラスですが、今回はブチ切れてみせながらも、愛する者を理不尽にも失った男の哀愁や孤独、そして戦えば戦うほど心身ともにボロボロになっていく過程を見事に演じ切ったといっても過言ではないでしょう。
今回は時代設定を1980年代に据え置いたことで、1970年代の残滓を背負ったかのようなサイケデリックな雰囲気やらヒッピー文化の成れの果てやら、ちょうどこの頃全世界的に大ヒットしたマイケル・ジャクソンの「スリラー」のようなホラーチックな要素、デスメタルのようなロゴ文体や“地獄”の体現、時折垣間見る当時のポップなテレビCMなどの1983年当時の時代の空気を再現しているかと思えば、悪役のひとつ「ブラック・スカルズ」のモダンチックな描写はまさに大ヒット作『ヴェノム』(2018年公開)を彷彿とさせるものがあります。
難を言えば、キャラクターの掘り下げ、特に宿敵ジェレマイア(ライナス・ローチ)率いるカルト集団の目的やらバックボーンやらの描写が薄かったことですね。各媒体では「主人公レッド(ニコラス・ケイジ)はある過去を抱えていた」なんて書き方をされていたりしますけど、実際はマンディの幼少時代に触れた程度で、しかも物語の伏線にすらなりえなかったというか、過去のエピソード抜きでも物語が成立したのではと思います。とはいえ今作の監督を務めたパノス・コスマトスはまだまだキャリアが浅いのでこれからどう化けていくのか見物ですね。
元々叔父に『ゴッドファーザー』シリーズなどで知られる名監督フランシス・フォード・コッポラがいる芸能一家に生まれ育ったニコラス・ケイジ(“コッポラ”の名の重みに耐えきれず、あえてマーベル・コミックのスーパーヒーロー『ルーク・ケイジ』から芸名を取ったことはあまりにも有名)、今後はあと数年で俳優業からフェードアウトし、叔父のように映画監督に転身したいという意向を示しているニコラス。これまでニコラスがメガホンを執ったのは2002年公開の『SONNY ソニー』のみですが、果たして望み通りにいくのか楽しみですね。
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