「ブルックリン」や「レディ・バード」などの話題作に出演し、若干24歳にしてアカデミー賞常連のシアーシャ・ローナンと今最も有名なイギリス人作家の1人ともいわれている、2007年に公開されたシアーシャ・ローナンも出演した大ヒット作「つぐない」の原作者イアン・マキューアンの作品、「追想」を再びシアーシャ・ローナンが演じた話題作を今回はご紹介します。
追想の作品情報
タイトル:追想
原題:On Chesil Beach
監督:ドミニク・クック
脚本:イアン・マキューアン
原作:初夜
キャスト:シアーシャ・ローナン/エドワード・メイヒュー/アンヌ=マリー・ダフなど
公開:2017年9月19日(イギリス)2018年8月10日(日本)
詳細:「つぐない」以来となるイアン・マキューアンとシアーシャ・ローナンの新たな作品
今回は前作の「つぐない」とは別に脚本もイアン・マキューアン自ら手掛けておりまた別の解釈も加わった展開もあり、原作を読んだ方でもまた新た発見ができる作品。
追想のあらすじ(ネタバレ)
1962年のロンドンが舞台。1962年といえば有名なビートルズがデビューした年で、当時起こったカルチャームーブメント、スウィンギング・ロンドン(別名スウィンギング・シックスティーズ)が起こる前の時代だったので、未だこの時代は色んな面で保守的な時代でした。
そんな時代の中、シアーシャ・ローナン演じるバイオリニストのフローレンスとエドワード・メイヒュー演じる歴史学者を目指すエドワードは結婚式を終えたばかりで、新婚旅行に原題にもなっているイギリスにあるチェジルビーチ行きます。
幸せの絶頂だったはずが初夜に起こる出来事がきっかけで、2人の人生の歯車が狂い始めます、、。
二人の出会い
2人が出会ったきっかけはエドワードが学校で歴史の科目で1位になり、嬉しくて家族などに報告しますが皆反応がいまいちでした。
彼はどうしても誰かと共有したく、街に出てパブでお酒を飲み、1人で祝福を上げていましたが反核兵器運動を行なっている会のポスターが目に入り、中を覗きました。
そしてそこに参加していたのがフローレンスでした。
2人ともお互いを見るや否目が釘つけになってしまいそのまま外に行き、エドワードは自分が1位なったことを伝えると彼女も音楽で1位を取ったばかりで2人で祝福しました。
それがきっかけでその後もお茶を飲んだり、エドワードがお手伝いしているクリケット場にフローレンスが遠くから1人で訪れてみたりして2人の仲はどんどん深くなっていきました。
ある日フローレンスはエドワードの実家に招かれます。
ただエドワードは心配事がありました。
それは彼の母親(マージョリー)のことでした。
映画の中の描写にもあるようにエドワードの母親は電車での事故がきっかけで脳が損傷してしまい、少し他の人とは変わった行動などを取ってしまうようになり、エドワードはその母親の介護などもしていました。
母親はその事故以降あった人のことはすぐ忘れてしまうのでエドワードはそれを心配し、フローレンスにも話しますが、彼女はそんな心配をよそにマージョリーがずっと描いている絵を一緒に描こうと提案し、マージョリーも終始笑顔で彼女に接しておりご機嫌でした。
そんなフローレンスの頑張りもあり、エドワードの双子の姉妹を含め家族全員彼女のことを絶賛で、父(ライオネル)からは「彼女と絶対結婚したほうがいい」とまで言われるようになりました。
そんな仲も良く何事も順調にいっているように見えた2人でしたが問題点がいくつかありました。
二人の問題点
フローレンスは中流階級の家庭に生まれ、父親も会社を経営しているので特に社会的にも地位的にも問題なく過ごしてきました。
その一方エドワードは労働者階級の出身で社会的地位で見るとフローレンスの家庭よりかは下に見られていました。
今の時代でもたまにイギリスでは階級のことが話題に出ることがあるぐらい(階級によっては生活スタイルやまた言葉のアクセントまでもだいぶ違ったりします)社会的地位には厳しい世界です。
今でもたまに話題に出るぐらいなので、1962年というまだ権威主義が主流だった時代となると周りの目、特にフローレンスの親からはエドワードのことを下に見ることがありました。
またフローレンスも一見何事も問題なく育ったように見えましたが、彼女の中で葛藤しているシーンがいくつかあります。
彼女の父親は日本的にいう亭主関白な父親で彼の言うことは絶対でした。
またその父(ジェフリー)はたまに自分の思い通りに物事がいかないと狂気じみた行為を取ってしまうことがあり、実の娘のフローレンスにも厳しい態度を取る場面がありました。
映画の中ではあまりその描写は出てこないのですが、フローレンスがまだ幼女だったころ、彼女の父親と見られる人から叱咤されているシーンがあり、もしかしたら性的虐待も受けているのではという解釈も取れます。
そのこともあってかフローレンスはどこか男性恐怖症なところがありました。
特に性のトピックについてとても繊細でした。
エドワードとの関係が深まるにつれて避けることができない性についてのこと。
フローレンスは行為についてもっと知ろうと努力し、手順についての本も読んでみたりしましたが、どうしても受け入れられず嫌悪感を抱きます。
結婚を経て
そしてそのまま時は過ぎ、無事結婚式を終え新婚旅行を楽しんでいたのですが、
その初夜に問題が起きてしまいます。
実は2人とも経験がなくお互いに初めての相手でした。
そのためどのように誘えばいいのか、何から始めたらいいのか分からず、ぎこちない時間だけが過ぎていきます。
ただそれを彼は彼女に知られないよう自分なりに上手く彼女をエスコートしますが、2人とも緊張しているのもありぎこちなく上手くいきませんでした。
フローレンスもそれを知り、彼女なりに彼をサポートしますが初めて通しなので逆効果。
そしてちゃんと行為が出来なかったまま不穏な空気が流れた中フローレンスは自分の脚にかかったものを見て発狂してしまいます。
クッションで拭き取ろうとしたり、エドワードの前で「汚い!」と叫んでしまったり、
フローレンスもそんな自分がおかしいと分かっているので、エドワードに「見ないで!」などと言いますがその後部屋を出ていってしまいます。
エドワードはそんなフローレンスを見てしまい傷ついたまま彼女を追い外に出ます。
エドワードはフローレンスを見つけましたが、あまりのショックに彼女を責めてしまいます。
そんなフローレンスからビックリする提案が出ます。
それは結婚したばかりですが、これからそういう行為をすることは想像出来ないし、必ずしも夫婦はそういうのをしないといけないわけではない。
なので型に縛られない夫婦関係、すなわち営み抜きの関係になろうというものでした。
それを聞いたエドワードは激怒します。
彼女の過去を知らなかった彼は勿論その提案を受け入れるわけはなく、
フローレンスが「一緒に戻ろう。」と声を掛けましたが彼は別れを選んでしまいます。
二人の別れ
エドワードは怒ったままホテルで酒を潰れるまで飲み、朝を迎え元にいた場所、実家へと帰りますが勿論彼の家族はそんなことが起こったなど知りません。
彼の妹たちはフローレンスのことが本当に大好きだったのでなぜもうフローレンスに会えないのかなど聞きますが、エドワードは幼い彼女たちに本当のことは言えず、大人になれば分かることもある。ともうフローレンスのことは口に出さない約束をさせます。
彼の父親からも結婚をなかったことにする同意の書をフローレンスの家族から受け取ったこと、本当に父に話すことはないのかと聞きますが、エドワードは今はもう何も話す気になれません。
それから2人は会うこともなく、結婚も破談になり数年後のスウィンギング・ロンドンが起こった後の世界へと映画は移ります。
エドワードはロンドンのレコードショップにて働いていました。
フローレンスと別れた後相手はいないようでした。
そんな彼のお店に1人の女の子が訪れます。
その子は母親の誕生日に母の好きなアーティストのレコードを買いたいというのですが、
そのアーティストが彼女の好きなアーティストと一緒。
またその子が「お母さんはいつもクラシック音楽ばかりを聞いてるけど実はこんなのも好きなの。これをプレゼントしたらきっと驚き喜んでくれるわ。」と言い、エドワードは、はっとします。
その子が持っているヴァイオリンのケースをみるとフローレンスが将来この名前でカルテットで弾きたいと言っていたグループの名前のステッカーが貼ってありました。
フローレンスはエドワードに新婚旅行中「将来女の子が産まれたらクロエという名前がいい。」と言っており、エドワードがその女の子の名前を聞くと、その子はクロエと言ったのでした。
その夜、エドワードは彼の友人たちに昔こういうカップルが居たんだ。と自分とフローレンスの話をしました。
そして彼がいかに彼らが無垢で、無知だったか。それを後悔しているようだということも話ししました。
また別の日、エドワードが昔と変わらずクリケットの試合をした後家でラジオを聞いているとフローレンスが昔エドワードに自分のバイト先のコンサート会場にて将来ここであなたのためだけに演奏するわ。と言っていたあの場所で演奏するという情報が流れました。
演奏会当日
フローレンスは家族に激励を受け、舞台に立ち、演奏していました。
彼女の向かいには昔一緒にカルテットを組んでいて、フローレンスのことが好きだったチャールズが一緒に演奏していました。
エドワードと別れた後、フローレンスはチャールズと結婚し、孫まで出来ていたのです。
そんな中ふとエドワードと約束をした日に、僕はここでブラボーと言うよ!君だけのために!と言っていた席を見るとエドワードが座っていました。
あの新婚旅行以来の再会でした。
そしてエドワードは聞こえないようにブラボーと言いフローレンスは涙を流したのでした。
追想の感想
あらすじには時系列にして書きましたが、
実は本編では最初は新婚旅行のシーンから始まります。
そして食事や会話をしている途中で昔のシーンに10分ほど遡ったりします。
なので途中から、今見てるのは現在進行している話なのかそれとも過去の話か分からなくなるのですが、でもこの構成のおかげで、あ。こういうことがあったから今きっとフローレンスはこういう気持ちなんだ。
こんなぎこちない関係に見えるけど実は2人はちゃんと愛し合っているんだ。
けれど2人もまだまだ経験もそこまでなく、無垢なだけでそれを上手く話し合えてないからこうなってしまっているんだ。など理解できます。
そして一番感動したのはフローレンスがエドワードに「一緒に戻ろう。」と声をかけるシーンですが実はその声を掛けたシーンが最初カットされているのです。
映画の後半にてそのシーンだけ出てくるのですが、私は最初映画が途切れてしまったのだと思い、再度そのシーンに戻って確認したりしました。
ですが後半そのシーンが出てきて納得しました。
2人は喧嘩別れになったのではなく、歩みよったのですが、すれ違ってしまい別れてしまったのをその描写だけで表しているのを見て、これはこういう描写でないといけない。こういう編集でないとここのシーンの重要さを表せないと感じました。
そして普通であれば、再度和解、もしくは再会して2人がまたくっつくのだと思いますが、
そういかないのはこの作品に時代背景や若さなど色んなことが重なってしまったからなのでしょう。
なんで?と思うところがいくつかあったのですが、時代が違ければ文化も違います。
日本でも今ではありえないことが昔には普通にあったりします。
映画を見た後ネットで調べて、ああ。そういうこともあるのかなど色々知れました。
20代前半に結婚した2人。
もう少し後になっていればもしかしたらこんなことにはならなかったのかもしれません。
でも誰もが通る若さ故のむず痒い感情、大人になっていく瞬間などの繊細なところをこの映画は上手く表現していると思います。
なので実際見てても、なんで!と思うところがいくつかありますし、
それはきっと私自身もう経験したから思えるのかもしれません。
この映画を20代前半もしくは10代で見ていたらそういう感情はなく、もしかしたらそうそう!と同感したり、同情してしまうこともあると思います。
また異性から見たこの映画は全く違う風に見えるのかもしれません。
そういう意味では私だけではなくこの映画を見た色んな世代の人の感想を聞いてみたい作品です。
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