『パピヨン』は、1973年に公開されたスティーヴ・マックイーンとダスティン・ホフマンの同名映画『パピヨン』のリメイクで、流刑地を脱獄する囚人を描いた伝記映画です。アンリ・シャリエールの自伝小説を原作としており、彼の胸にある蝶の刺青がタイトルの由来。『氷の季節』を出展した東京国際映画祭で脚光を集めたデンマーク人監督マイケル・ノアがメガホンを取りました。
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『パピヨン』作品情報
タイトル:パピヨン
原題:Papillon
監督:マイケル・ノア
脚本:アーロン・グジコウスキ
原作:『パピヨン』アンリ・シャリエール
製作:ジョーイ・マクファーランド、デヴィッド・コプラン、ロジャー・コルビ、ラム・バーグマン
公開日:2018年8月24日(アメリカ)、2019年6月21日(日本)
出演者:チャーリー・ハナム、ラミ・マレック、ローランド・ムーラー、ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン、イヴ・ヒューソン、マイケル・ソーチャ
『パピヨン』概要
本作は、リメイクとしてカテゴライズされていますが、監督を務めたマイケル・ノアはオリジナルを踏襲していません。アンリ・シャリエールの原作『パピヨン』と『パピヨンは死なない』に戻り、詳細にこだわって描写。殆ど全てをロケーション撮影し、ジャングルのシーンに選んだマルタやモンテネグロでは、実際にヤシの木を植樹して撮っています。
キャスト
主演のアンリ・シャリエールには『パシフィック・リム』のチャーリー・ハナム、ルイ・ドガを『ボヘミアン・ラブソディ』のラミ・マレックが演じます。その他に、『ドラゴン・タトゥーの女』のオランダ人俳優ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲンが刑務所長バロット役で出演。
『パピヨン』あらすじ・ネタバレ
‐これは事実に基づく物語である‐
1931年、パリ。アンリ・シャリエールは、金庫のダイヤルを回しながら目を閉じて音を聞く。部屋がある2階の窓から逃げた後、キャバレーで依頼人と合流。約束通りダイアモンドを渡し、店で働く恋人のニネットにくすねた宝石をプレゼントした。
夜をニネットと一緒に明かした翌日、突然警察が押し入り、アンリは身に覚えのない殺人事件の容疑者として逮捕される。罠にはめられ濡れ衣を着せられたアンリは終身刑を言い渡され、フランス領の南米ギアナへ護送されることになった。
ルイ・ドガとの取引
護送船で出会ったジュロがルイ・ドガを指差し億万長者と呼ぶ。ルイは戦時債券を偽造して稼ぎ、体内のどこかにお金を隠し持っていると周囲から思われていた。脱獄を目論むアンリは、資金の提供を条件にルイの護衛をすると申し出た。
自分で対処できると一度は断ったルイだったが、隣で寝ていた囚人が胃に隠していた僅かなお金のために腹を切り裂かれて殺害され、その分け前を受け取った看守が犯人を見逃している所を目撃。翌日、ルイはアンリに近づき申し出を応諾した。
脱獄する時は別行動だと言うアンリに対し、控訴審が決まっているルイは、クリスマス迄に帰宅できるので脱獄には興味が無いと答える。ギアナに到着した囚人たちを劣悪な監獄が生活が待っていた。
顔の利く便利屋を見つけたアンリは、ルイに賄賂を出させて2人を安易な医務室付きの仕事に就くよう手配。しかし、刑務副所長に睨まれたルイが厳しい労働を強いられる採掘現場に配置された。体調を崩したルイは、下痢で体内に隠したお金を失ってしまう。
ある日、お金を用意できればボートを手配できると同じ現場で働くセリエがアンリに持ち掛け、脱獄を示唆する。度々命を狙われていたアンリに救われたルイは、1人残れば生存できないと気付き、自分も一緒に脱獄したいと言いだす。
そして、単独で脱獄を図ったジュロが看守を1人殺害し、その罪でギロチンに掛けられ公開処刑される。刑務所長はアンリを指差し、他の囚人とジュロの遺体の始末を命じた。看守に付き添われたアンリとルイは、足場の悪いジャングルをジュロの遺体を運ぶ。
大量の血が服に着いたルイは気が動転して座り込む。看守が目を剥きルイに立てと怒鳴るが、ルイは立ち上がれない。看守はルイに鞭を打ち始め、見ていられなくなったアンリが、石を掴んで看守を殴り逃走した。
サイレンを遠くで聞きながら、アンリは必死に走る。しかし、結局捕まったアンリは監獄に連れ戻されてしまう。刑務所長は、更生など意味が無いことは知っており、お前を壊してやると言い、2年間の独房生活を命じた。
友からの贈り物
アンリが殴った看守が独房を訪れ酷く叩きのめす。液状だけの食事を与えられる中、ある日ルイから毎日届けるとメモが添えられ、ココナッツが届く。久し振りに何かを歯でかじる感触をアンリは噛みしめた。
その日から、欠かさず届くココナッツを支えに、アンリは体を鍛えはじめる。しかし、看守に見つかってしまい、刑務所長から誰がココナッツを送っていたのかアンリは尋問受けた。決して口を割らないアンリは、水を飲む事も禁じられた。
やせ衰え生気を失くしたアンリに、スープを持ってきた所長は名前を言えと迫る。それでも沈黙を守るアンリに対し、所長は屋根を閉じさせ明かりさえも奪った。精神的に限界をむかえたアンリは、自分で首を絞めた。ふとニネットと過ごした夜が頭を過った。
アンリは、道化の姿をしたルイが自分の持っている煙草に火をつける幻覚を見始める。遂に立つ事も出来なくなったアンリを看守が脇を抱えて医務室へ運んだ。その頃、ルイは頭の良さを買われて所長から経理の仕事をまかせられていた。
医務室に立ち寄ったルイは、様変わりしたアンリを見て目を疑う。自分のせいでこんな目に遭わせたとルイはアンリに謝罪し、妻が自分の弁護士と再婚してしまったと呟く。すると、そんな女は放って置けとアンリが視線をルイに向けた。
ルイが驚くと、正気を失ったと騙すのが狙いだとアンリが笑みを見せる。白状していればもっと楽に過ごせたのにとルイが言うと、アンリは当然それは考えたと返す。どうやって生き延びたのかと訊かれたアンリは、静寂に慣れただけと答えた。
もし、ここを出られたら別の人生を生きたいと疲れた表情を見せるアンリに、ルイは、日曜日に所長主催で地元の政治家を招き映画観賞が行われると声を潜めた。大きな音が響き看守たちは忙しくなるので、アンリにとって大きなチャンスだとルイは目を輝かせた。
アンリは船が要ると言い、準備する金があるかと訊く。ルイは、セリエが手配すれば自分達に着いて来るかもしれないと心配する。アンリは、自分達?と尋ね、ルイは一緒に脱獄するつもりだと微笑んだ。
アンリが突然ルイを掴んで立ち上がり、出て行けと怒鳴り始める。ルイは、この男は正気を失っていると大声で叫び医務室を後にした。医者が入れ替わりに来てアンリを抱き寄せ、薬を口に含ませた。周りに誰も居なくなるとアンリは薬を吐きだした。
医務室の扉を閉める役目を持つ囚人がトイレでマチュレットに言い寄る姿を目撃したアンリ。男の気を引きとめてくれれば一緒に脱獄させてやるとアンリはマチュレットに持ち掛けた。一方、ルイは、セリエを信頼できるかどうか分からないと不安を募らせた。
アンリに大丈夫だと諭されたルイは、セリエが要求した船の調達資金をアンリに渡す。アンリは、服用せずに貯めていた睡眠薬を看守のコーヒーに入れるようルイの手に忍ばせた。
脱獄
決行の夜、中庭にプロジェクターが用意され、『キングコング』が上映されている。ルイは酒瓶に薬を入れ、看守部屋へ持って行く。一方、わざとナイフで腕に傷つけたセリエも医務室のベッドに横たわり、アンリと一緒に映画の音楽を聞きながら時を待っていた。
マチュレットのベッドに鍵係の囚人が近づく。マチュレットは男に何事か耳打ちし、アンリに視線を向けた後一緒に医務室を出て行く。アンリとセリエはベッドのレールを取り外して布に巻きトイレへ向かう。囚人を殴って倒し鍵を奪った。
しかし、天候が急変し雨が降り始める。中庭を見ると所長が上映中止を宣言し、客が中へ入って行く。セリエは、ルイを待つというアンリに対し、直ぐ出ようと急き立てた。行きたければ勝手に行けとアンリが言ったところにルイが駆けつけた。
鍵を盗んでサーチライトを消灯させたルイは、照明が無ければ発見されないと息を荒くする。全員看守塔へ上がり次々に壁を飛び降りるが、最後にルイが壁を越えようとした所で、サーチライトが点灯。急いで飛び降りたルイは、足を怪我してしまう。
マチュレットとアンリがルイの両脇抱えて歩き始める。ジャングルを抜けて行くと、セリエが船の手配に交渉したブレトンが銃を持った部下を従えて姿を現す。ブレトンは先にお金を渡せと迫った。ルイは、これが所持金の全てだと言ってアンリに渡した。
ブレトンはお金を受け取るとヤシの葉で隠した小舟に案内する。夜が明け、静かな海へ4人は船を漕ぎ出した。しかし、船が老朽化していたため浸水が始まる。苛ついたセリエは、重量を減らすため足手まといのルイを海に投げ込めとアンリに言う。
誰も死ぬ必要は無いと返したアンリの視線の先には、稲光を伴う雨雲が近づいているのが見えた。いよいよ船が持たないとセリエがいきり立ち、ルイが文無しだと知ると隠し持っていたナイフを取り出した。
ルイのために死ぬ気など無いと怒鳴るセリエに、マチュレットが飛び掛かる。しかし、セリエに殴られ、マチュレットは海に投げ出された。更にルイを狙おうとするセリエを止めようとアンリが飛び掛かった。
揉みあいになりセリエがアンリに馬乗りになって首を絞め始める。ルイはセリエが落としたナイフを拾い、夢中でセリエを何度も刺す。アンリが息絶えたセリエの体を海に投げ込んだ。強風と猛烈な雨が降る中、必死に船から海水を捨てた。
アンリが目を覚ますと、見知らぬ原住民のベッドに寝ていた。ルイとマチュレットを探そうと外へ出たアンリは修道女に出会い、コロンビアに居ると知る。2人も看護され無事だった。
アンリは、修道女の話から脱獄囚だと感づかれていると分かり、直ぐに出発しようと言うが、ルイとマチュレットはその気が無かった。アンリは別れを告げ、歩を進める。しかし、ギアナの看守が乗る車を見かけ、アンリは急いで元来た道を戻った。
まだ傷の癒えないルイを抱きかかえたアンリが原住民の家を出た所で看守たちに取り押さえられる。マチュレットは目の前で射殺された。憎々しい修道女の物言いに、通報したのは彼女だと分かった。
デビルズ島
時が流れ、若さは残すものの独房の生活にすっかり頭の毛が白くなる頃、アンリは釈放される。所長が外で待っており、5年もの歳月を独房で生存した人間を見たかったとアンリを物珍しそうに見た。
何を希望に生き延びたにせよ、行く先には見つけられない物だと所長は言い、アンリがデビルズ島へ送致になると宣告する。小舟に乗せられたアンリの目前に、巨大な絶壁に囲まれた島が広がった。アンリは、島でルイと再会。
服従しなかったルイに腹を立てた所長は、独房ではなくデビルズ島へ送致し、5年間の年月を過ごしたとルイは話す。海の側へ行きたいと言うアンリを案内したルイは、例え崖からの落下を生き延びても海は無理だとアンリの心情を読んで説明した。
夜になると壁や天井にルイは絵を描きはじめる。翌日、海をじっと見つめたアンリは、いかだを作れば後は波が本土まで運んでくれると目を輝かせた。後を着いて来たルイに、アンリはココナッツを崖から投げ海に浮く様子を見せた。
自由へ
2人はココナッツを袋に詰め始める。ルイは、蝶を描いた布を丸めて瓶に入れ、一緒に袋に入れた。ココナッツ入りの袋をまとめて縄で縛り崖まで運んで来ると、ルイは自分の居場所はここだとアンリに言う。
アンリは小さく頷きルイを固く抱きしめる。海にココナッツを落としたアンリは、笑顔でルイと握手を交わし、勢いよく崖から海へ飛び込んだ。ルイは、淵まで歩を進め、心配そうに眼下の海を見つめる。目を閉じると、ルイの名前を呼ぶアンリの声が木霊した。
ココナッツのいかだによじ登ったアンリを見たルイは、胸を叩いて雄叫びを上げる。アンリも満面の笑顔で叫んで答えた。ルイは、満足そうに頷き眼下のアンリを見つめた。
1969年。アンリがリスクを背負って戻ったことに驚いた出版者は、まだ時効を迎えていないことに言及する。アンリはベネズエラに居住していると話し、長居はしないと答えた。
フランスで出版されることが大切だと続けるアンリは、まだ覚えているうちに書いておくよう妻に勧められた回顧録を渡す。出版者がフォルダーを開くと、蝶が描かれた古い布が一番上に挟んであった。
出版者は目の色を変え、アンリに本物の出来事なのかと尋ねる。これは、自分だけでは無く、多くの男達の話だとアンリは答えた。
-8万人を越える受刑者がフランス領ギアナへ流刑され、殆どがフランスへ戻ることは無かった-
-アンリ・シャリエールの自伝『パピヨン』は、フランスで21週間ベストセラーとなり、今日までに30ヶ国の言語に翻訳され千3百万冊売り上げた-
-1970年、フランスの法務大臣は、シャリエールのフランスへの帰国を法的に許可-
-アンリ・シャリエールは、余生を普通の市民として送った。ギアナの流刑地は、シャリエールが存命中に閉鎖された-
『パピヨン』を観た感想
恨みを買って殺人の濡れ衣を着せられたアンリ・シャリエールが脱獄に成功し自由を手に入れるまでを描いた『パピヨン』。壮絶な人生を送ったシャリエールの自伝に書かれた事実を忠実に再現することにこだわり制作されました。
パリの煌びやかな生活から一転、劣悪極まる凄惨なる徒刑場へ送られたシャリエールは、他の多くの囚人とは異なり最初から脱獄を考えて計画しています。必要な資金を得るために、手を組んだルイ・ドガと一緒にギアナを脱出しますが失敗。
脱獄を試みた罰としてデビルズ島へ流刑された2人の運命は、ここで別れます。シャリエールが独房に5年間も閉じ込められた間、最初からこの徒刑場へ送られていたドガは刑務所の生活に適応し、ここが自分の居場所と生きる覚悟を決めています。
一方のシャリエールは、デビルズ島の波を観察。実は、毎回7度目に押しよせる波が大きく沖まで引く事に気が付きます。劇中、いかだを作れば潮の流れで本土まで連れて行ってくれるとドガに言う台詞はこの事が基になっています。
主人公アンリ・シャリエールを演じたチャーリー・ハナムは、キャストのオファーを一度断りました。しかし、本作の監督を務めたマイケル・ノアがスケジュールを調整したことでハナムは出演を決定。
また、ハナムとノアーが最初に打ち合わせをした日、ルイ・ドガを演じられるのは、ラミ・マレックしかいないと結論が出たそうです。マレックを高く評価していたハナムは、彼がドガ役を引き受けないなら、映画の製作はしない方が良いと思ったそうです。
マレックは知的な詐欺師・ドガに扮し、ハナムと共に目を見張る演技力を披露。翌年、『ボヘミンアン・ラブソディ』でフレディ・マーキュリーを演じアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。
凄まじい減量に挑んで役づくりをしたハナム。脱獄した罪で独房に拘束される連続シーンは、撮影期間の終盤に撮られました。『ロスト・シティZ』で20キロ体重を落としたハナムは、同じ事をしても以前の様に痩せやれなかったと話します。
そのため、ノアーと話し合い、8日間食事も水も全く取らず独房に留まり撮影に臨みました。撮影終了後、精神的に消耗したハナムは直ぐ家に帰ることが出来ずロンドンのホテルに3日間滞在。その後母親を訪ね暫く過ごしながら自分を取り戻しました。
必ず脱獄すると心に決めたシャリエールは、実際は8度目の試みで遂に自由を手に入れます。彼の自伝を懐疑的に見る歴史家やジャーナリストも居ますが、当時囚人の死亡率75パーセントだったギアナの流刑地をシャリエールが生き延びたことは事実なのです。
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