1980年代後半に米国で実際に起きた実際の殺人事件を基に映画された米国映画。中産階級に育ちお金持ちとは縁の無い成績優秀だった青年が、煌びやかな世界に留まるために犯罪に手を染め落ちて行く様を描く。
監督を務めたのは、2005年に公開された『ワンダーランド』でも実際の殺人事件を基にした映画でメガホンを取ったジェームズ・コックス。
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ビリオネア・ボーイズ・クラブの予告動画
ビリオネア・ボーイズ・クラブの作品情報
タイトル:ビリオネア・ボーイズ・クラブ
原題:Billionaire Boys Club
監督:ジェームズ・コックス
脚本:ジェームズ・コックス、キャプテン・モズナー
製作:ホリー・ウィーアズマ、カシアン・エルウィズ、クリストファー・ルモール、ティム・ザジェロス
公開日:2018年8月17日(アメリカ)、2018年11月10日(日本)
出演者:アンセル・エルゴート、ケヴィン・スペイシー、タロン・エガートン、トーマス・コックレル、ライアン・ロットマン、ジェレミー・アーバイン
ケヴィン・スペイシーの性的暴行疑惑が公になり、放映する劇場の数を限定したものの、興行収入は最初に公開された米国において散々たるものだった。しかし、本作がスペイシーの引退前最後の映画出演と言われている以上、スペイシーのファンは是非見ておきたい作品。脚本を兼務したジェームズ・コックスが事件を丹念にリサーチして書いている。
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ビリオネア・ボーイズ・クラブのキャスト
主演は『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴート。そして共演は『キングスマン』の英国人俳優タロン・エガートンで、カリフォルニア特有のアクセントを完璧にこなしている。
ビリオネア・ボーイズ・クラブのネタバレあらすじ
1983年7月9日、ウェスト・ハリウッドでディーン・カーニーは名門高校卒業以来、6年ぶりにジョー・ハントと出会う。ジョーはクラスで一番優秀だったが酷く安物のスーツを着ている。2人は久しぶりの再会を喜ぶ。ジョーは、西のウォール・ストリートと呼ばれるパシフィック株式市場で働いており相変わらず父親と一緒に住んでいると近況を話す。
ディーンは、新車のコルベットを転売した大金を見せて、一緒にチームを組もうと言う。そして、ジョーに大物のお金を動かすのではなく、自身が大物になるべきだと力説し、ロサンゼルスの高級レストラン、スパルゴでパーティーがありお金持ちを紹介するので来るようにと誘う。ジョーは、高校で不人気だったと言い躊躇するが、ディーンは自分のコネとジョーの頭脳でロサンゼルスを支配できると力説する。コスチュームパーティーだからそのつもりでと言う。
ジョーは、レーガン大統領の覆面をしてスパルゴを訪れるが、入り口でドアマンのティムに入店拒否される。ディーンが入口に出てきて、ようやくジョーは店に入る。店内は、大勢のコスチュームを着た客が躍っている。ディーンは赤ワインをジョーの白いシャツにひっかけて、これが掴みになると言いジョーを高校時代の同級生でエリート家族の仲間達が座っているVIP席に連れて来る。
ジョーの赤く染まったシャツを見せて暗殺されそうになった大統領だとディーンが言うと、チャーリー、兄弟のスコットとカイルは笑顔になる。この3人はビバリーヒルズで一番お金持ちの息子である。ジョーは金の投資話をプレゼンテーションするが誰も興味を示さない。
落ち込んで家に戻ったジョーは、スティーヴ・ジョブスがTIME誌の表紙になっているのを見て内容を読みメモを取り始める。「要は商品ではなく、ライフスタイル」「パラドックス・フィロソフィー(逆説の哲学)」
翌日ディーンを呼び出したジョーは、実存するコンピューター技術を簡素化して成功したスティーヴ・ジョブスがまだ26才ながらアメリカン・ドリームを叶え、1億4900万ドル稼いだ話をする。ジョーは自ら構想を練った新会社BBCを立ち上げようと言う。ディーンは、カイルにから新車購入のために預かった1万ドルをジョーに渡し、倍の2万ドルにすれば投資したい人が列を作ると言う。
この時代、1ガロンのガソリンは91セントで、1万ドルと言えば米国の平均的家族の年収に相当する額である。ジョーは金に投資し、3週間で35パーセントの利益を出す。
ビバリーヒルズの大物ロン・レヴィン
ディーンは前週に車を転売したお客のロン・レヴィンの豪華な邸宅にジョーを連れてくる。ロンは電話の子機を2台それぞれの手に持ち、早口でまくし立てている。ディーンがジョーを天才だと紹介する。ジョーはカウンターに置いてあった新聞で金が暴落した事を知り動揺する。ロンはガラスケースの展示物が6000年前の遺物だと言ってジョーに持たせようとする。ジョーは手を滑らせて床に落とし粉々にしてしまうが偽物だと知ってホッとする。ロンは、本物だと思い込む事が事実よりリアリティを生むと言う。
お金持ちの息子達を集めたディーンとジョーは、自分達の新会社構想をプレゼンテーションしようと目論む。しかし、カイルから預かった1万ドルで投資していた金が50パーセントの損失が出たため、ジョーは残額の5000ドルを返金するとディーンに言う。しかし、ディーンは多くの伝説的人物はこうして伸し上がったと力説する。
みんなを前に、ジョーは5000ドルのマイナスではなく、縦棒を書き加えて5000ドルのプラスとする。そして、自分の父親にお金を貰うのではなく、自ら稼ぐ絶好の機会だと言い新会社BBCについてプレゼンテーションを始める。カイルに5000ドルの小切手を渡し、これが投資した元金に対する3週間で得たリターン50パーセントだと言う。ディーンが持ち帰って熟考するように言うと、カイルは冗談だろと言い、今夜スパルゴへ一緒に来るように言う。
高級車でスパルゴに乗りつけると、カイルはジョーの肩を抱いて、ドアマンのティムにジョーが自分の親友で2度と外の列に並ばせるなと言う。
豪華な食事をしながら、ディーンはパラドックス・フィロソフィーについて説明する。誰もがこの一線は越えないという限界は、状況に応じて変化すると言い、チャーリーに絶対悪は何かと尋ねる。チャーリーが殺人だと答えると、ディーンは、100万ドルで殺人を請け負うかと更に尋ねると、チャーリーはやらないと即答する。カイルが誰もやらない、と言うと、ジョーがもしカイルの母親が暴行されていたらどうするかと尋ねる。カイルは。それならやると言う。ジョーは、認識に変化が加わると物事の善悪は相関関係を持つと自説を繰り広げる。
給仕がロンからだと言いジョー達に高級ワインが差し入れられる。ジョーとディーンがロンのテーブルへ挨拶に行く。ディーンは、ジョーが投資で50パーセントの儲けを出したと言うと、ロンは今日の午後に会った時は多額の損が出たように思ったと言う。ジョーは、空売りしていたので逆に大きな儲けを得たと嘘をつき、今度投資の話をしようと誘う。ロンは会った時からジョーが自分の様にハスラーだと思ったと言う。
自転車操業の始まり
8月11日、乗り気になったスコットは8万ドルの小切手を切り、カイルはリターンだと貰った5000ドルの小切手をジョーに渡す。ジョーとディーンは、この兄弟の資金を基に米国では手に入らないBMWをドイツから1万ドルで購入し、米国で8万ドルで転売したスキームをロンの自宅を訪れて説明し、投資するように持ちかける。
ロンは発想が小さいと言い、自分が乗る時は完全に乗るし、投資するのは取引ではなく人間関係だと言う。そして、BBCの構想で利己主義という言葉が気に入り、これこそ成功する要素だとジョーに言う。ロンは、米国証券取引委員会の懲戒委員会で自分の投資手段が問題視されたが超法規的だったため罪にはならなかった話をする。
ジョーはスパルゴのドアマン、ティムを用心棒に雇うことにし、BBCのオフィスをビバリーヒルズに設立する。一方、ジョーを信じ切ったチャーリーとスコットは自分達の父親に投資の参加を口説き始める。全員が投資する事を決定し、ロンも会社を訪れ、出資すると言う。ジョーが額を訊くと、ロンは名刺を渡して記載された電話番号に連絡しろと言う。
ディーン、チャーリー、カイル、そしてスコットも側に集まる。電話の相手はフランクと名乗ると、ロンがジョーの自己紹介をする。口座の残高を尋ねたジョーは息を飲む。スピーカーフォンに切り替えもう一度数字を行ってくれとジョーはフランクに尋ねる。フランクは410万2ドル5セントだと繰り返す。
ロンは、BMWは売って家賃を払えと言い、自分が今渡した口座の資金運用を成功させれば人生が変わると続ける。更に、ロンは社名のBBCがbrainless(能無し)、boneheaded(間抜け)、cartel(企業連合)を意味しているのなら別だが…或いは、君たちはビリオネア・ボーイズ・クラブかと言うとジョー達は高揚する。
最初に出資した投資家は、ジョー達に自宅を二重抵当にして用意した資金を出資すると告げる。ジョーとディーンがこのお金を必要だった理由は、ロンの4百万ドル以上の資金は、ロンに代わって運用できるだけであって、書類上はお金があっても現金は乏しかったからだ。
ジョーは、300万ドルの負債を抱えるエネルギー企業に目をつけ、ロンの資金で買収し合併させて儲けるアイデアを考え付き、3年で2.5億ドルの儲けと試算した。株主を説得する事に成功したジョーは、ビバリーヒルズの高級住宅を購入しディーンと勝利を分かち合う。
クリスマスパーディを自宅で開いたジョーは、チャーリー、カイル、そしてスコットにBBCの株式を渡す。ロンは、ロレックスの腕時計をジョーとディーンにプレゼントし賞賛する。ディーンとチャーリーは中東のお金持ちを父に持つ息子イジーをジョーに紹介する。しかし、その父親はイランの諜報機関やFBIから指名手配されている人物である。イジーは自分の父親がとても裕福であると言い、BBCに参加したいので今度自宅があるサンフランシスコに来てくれとジョーを誘う。
一気に奈落の底へ
ある日ジョーがフランクに電話してロンに対する支払いが実行されているかどうかを尋ねると、フランクは物語の続きかと訊きかえす。ジョーはどういう意味だと訊く。400万ドルを超える資金の話はロンの真っ赤な嘘で、偽の口座を利用し他から150万ドルを騙し取っていた。更に、ロンがくれたロレックスは秒針がチクタク音を立てて動いており偽物だと分かる。
BBCのメンバーは、ロンをとっちめてお金を奪還する計画を立てジョーが意見を箇条書きにしてメモを取るが、ディーンは殺人まで口にする。
ロン宅にティムを連れて来たジョーは、ロンを徹底的に脅せと命ずる。ロンがジョーを家に招き入れると覆面をしたティムが銃でロンを殴りつけ、ロンの犬を人質にするとロンは慌てて小切手帳の在りかを教える。ジョーは75万ドルとタイプする。ロンは、フランクを利用してジョー達を騙したのではなく、ジョー達を利用してフランクを騙したのだと言う。
ジョーは、ロンが騙し取った150万ドルの内半分を寄こせと言い、ロンに先ほどタイプした小切手にサインさせる。ジョーがその小切手をティムに見せると、ティムは覆面を取る。するとロンが大声で笑いだし、ティムにドアマンの仕事を世話したのは自分だと言い、ジョーを下等だと小馬鹿にする。そして、ティムに向かって猿と呼んだ瞬間、ティムはロンの頭を撃ちぬく。
ジョーは小切手を見せてディーンに事の成り行きを説明すると、ディーンはロンの自業自得であり、ジョーはすべき事をしたと言う。
南カリフォルニアのソレダッド峡谷に来たジョーは、ティムと一緒にロンの顔を薬品で焼いた後に死体を遺棄する。
エネルギー企業の株主達や50パーセントのリターン支払を待つBBCの投資家達への資金繰りに困り口論していた時、ロンの小切手が不渡りになった通知が届く。そんな時、中東のお金持ちの息子イジーを思い出す。
ジョー、ディーン、そしてチャーリーがサンフランシスコのイジー夫子を訪れると、イジーはイランの諜報機関が目を光らせているため移動できないので、父親をロサンゼルスまで隠密に連れて行ってくれれば、BBCに100万ドルを投資すると話す。
1984年7月30日、3人は、イジーの父親をトランクに入れてロサンゼルスまで運ぶ計画の実行を試みる。しかし、土壇場になりイジーの父親はトランクに入るのは嫌だと言いだし、アヘンを吸い過ぎて倒れてしまう。その際ポケットから貸金庫の鍵が出てくる。
3人はイジーの父親をトランクに入れて全員ロサンジェルスへ陸路で到着する。トランクを開けるとイジーの父親は、呼吸をしているものの意識が無い。イジーは、父親の貸金庫に500万ドル相当のダイヤモンドが預けてあると言う。
目覚めたイジーの父親はディーンに襲い掛かる。ジョーがディーンの加勢に駆けつけ、3人は格闘する。ディーンは、電話機を手にしようとしたイジーの父親の首を絞めて殺害する。ジョーは、自首しようと言うがディーンは死刑になりたくないと言う。ジョーはディーンに罪の意識を感じないのかと訊くと、ディーンは家族を虐待するゴミみたいな男だと言う。そして、父親を憎むイジーはお金さえ手にすれば問題にしないと続ける。
ジョーとディーンは死体の入ったトランクを運び遺棄する。ジョーは、お金を渡すまでイジーには父親の死を伏せておけとディーン言い、自分はお金を得たら借りた先に返済し、BBCを辞めると話す。
実家に戻ったジョーは、公証人の父に偽造したイジーの父親の署名を認証するよう頼む。
翌日、ジョーは自分の父親とイジーを連れて貸金庫を開けに来る。ジョーは父親に多くの人を傷つけたと後悔を口にする。父親が一緒に乗り越えられると声を掛けるとジョーは泣き出す。その時、警官がジョーに近づき、殺人罪で逮捕すると言う。
ディーンは、ジョーを止めようとしたがティムと一緒にロンを脅して小切手に署名させたと警察に話す。更に、トランクに穴を開けてイジーの父親が呼吸できるようにしたが開けてみると死んでいた、全てジョーが仕組んだとディーンは涙ながらに訴える。そして、ロンをとっちめる計画を立てた時にジョーが書いたメモを証拠品として警察に提出する。ディーンは、州検事総長の事務局で再度最初から証言するように言われた後解放される。
ディーン・カーニーは本事件の重要証人であり、1987年証人保護プログラム下に置かれた。ジョー・ハントはロン・レヴィン殺害の罪で終身刑の判決が下る。第2の殺人において、ジョー・ハントは代理人を立てずに自己弁護し、意見が割れた陪審員は評決不能。これは、カリフォルニア州の歴史上、極刑が問われる事件において初めて自己弁護が成功した事例である。
ビリオネア・ボーイズ・クラブを観た感想
想像するに監督と脚本を兼務したジェームズ・コックスが魅せられたのは、ジョン・ハント自身だろう。弁護人を立てずに自ら立証する記録が残っており、ハントが頭脳明晰でカリスマ性のある事がよく分かる。
当時はDNA鑑定が存在しないため、ディーン・カーニーとジョン・ハントの証言が重要証拠となっている感が否めないため、2人の泥仕合になっているのだ。また、事件が発覚したきっかけは、レヴィンと週3回は連絡を取り合っていた母親の通報である。ハントに対する逮捕状の決め手は、映画にもある通り、ハントの手書きのメモがレヴィンの自宅で発見されたことである。
米CBSの60ミニッツのインタビューで、ジョン・ハントはレヴィン及び裕福なイラン人の殺害に対し無実を主張している。最初の裁判では、ハントがレヴィンを殺害した事を本人から聞いたとBBCの元メンバー達が証言している。陪審員は証人達の証言を信じたものの、遺体が発見されていないため死刑を求刑しなかった。
二番目の殺人に対する公判。劇中でも登場したソレダッド渓谷から遺体が発見されている。しかし、弁護士の経験が無いにも拘らず、自ら弁護し、一貫して無実を訴えたハントは審理無効を勝ち取る。本作の終盤で描かれた展開は、ハントが実際に裁判で主張している通りの内容である。
どちらにしても、ハントが行っていた事は、ビジネスとは名ばかりの現代では珍しくない自転車操業による投資詐欺だ。運用の実態が無い架空の儲けを信じた投資家達が損をする訳だが、本作の特筆すべきポイントは、詐欺を行っていたハントとカーニーもまた詐欺に遭っていた経緯が詳細に描かれている部分である。
また、2人は、お金持ちで居る事に執着しているのではなく、偽の事業で資金を募っている事実がばれない事に必死なのである。最初についた5000ドルのリターンと言う嘘が後に100万ドル単位の嘘なるまでさほど時間がかからないのは、欲に駆られた大人達が独自に調べもせず子供の嘘を信じたからである。そこで、ケヴィン・スペイシー扮するロン・レヴィンの「事実より事実に見える物の方がリアリティを持つ」と言う台詞が俄然説得力を持って訴えかける。
ケヴィン・スペイシーのスキャンダルはメディアで大きく報じられた。疑惑が事実であれば許せないと思う感情は当然理解できるが、スペイシーの役者としての力量は否定できない。本作でも彼が登場する場面は完全にスペイシーの独壇場であり、詐欺師の巧みな話術を見事に表現している。
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