時をかける少女は小説家・筒井康隆の代表作であり、幾度も映画化やテレビドラマ化された不朽の名作。
今回は、原作から20年後の世界を、日本を代表するアニメーション監督のひとり細田守が映画化したアニメ作品『時をかける少女』(2006年版)についてのあらすじとネタバレ、感想を大特集しますので最後までお付き合いください。
Contents
『時をかける少女』の作品情報
タイトル:時をかける少女
監督:細田守
脚本:奥寺佐渡子
原作:筒井康隆『時をかける少女』
製作:渡邊隆史、齋藤優一郎
公開:2006年7月15日(日本)、2008年6月13日(アメリカ)
声の出演:仲里依紗、石田卓也、板倉光隆、原沙知絵、谷村美月、垣内彩未、関戸優希、立木文彦 など
監督の細田守にとっては初の長編監督作品『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』に続く2作目となり、東映アニメーションからフリーに転向しての初の作品となりました。
脚本は『学校の怪談』シリーズや『八日目の蝉』、実写版『魔女の宅急便』などを手掛ける奥寺佐渡子が、キャラクターデザインは『新世紀エヴァンゲリオン』などで知られる貞本義行が担当。主題歌は奥華子の「ガーネット」が採用されています。
『時をかける少女』のキャスト
当時まだ10代だった仲里依紗が主人公を演じ、後に実写版『時をかける少女』2010年版でも主演を務めています。
主人公の相手役には『リアル鬼ごっこ』シリーズなどの石田卓也が抜擢され、そのほかにも『仮面ライダー』シリーズや数多くのアニメ作品への出演、テレビ番組のナレーションでおなじみの立木文彦などが参加しています。
『時をかける少女』のあらすじ・ネタバレ
謎の声
ある夏の日。
ショートヘアがトレードマークの、少しドジなごく普通の女子高生・紺野真琴(仲里依紗)は同級生の男子高生・間宮千昭(石田卓也)や津田功介(板倉光隆)とグラウンドで野球をしていた。
ピッチャー役の真琴が球を投げようとしたその時、彼女の耳に謎の声が聞こえてきたのだ。
「なんかさ、聞こえなかった? 今」
どうやら真琴以外の二人には聞こえていないようである。
真琴は妹の美雪(関戸優希)にプリンを食べられたことを愚痴りながら球を投げると、突然「お姉ちゃん・・・」と声が聞こえてきた。
打ち上げたポップフライはいつの間にか目覚まし時計に変わり、真琴の頭上に落ちてきたのだった・・・。
夢から覚めた真琴は、美雪が既に朝支度を済ませていたことに驚いたのだ。
7月13日、いつもと変わらぬ日常
遅刻しそうになった真琴はコップ1杯の牛乳を飲み干し、母(安藤みどり)から帰りに“魔女おばさん”に渡してほしいとして袋一杯の桃を託され、自転車で学校へと急いだのである。
踏切を潜り抜け、途中で千昭と合流した真琴はそのまま学校に到着。
滑り込みセーフで間に合ったのだった。
真琴たちは早速、ガラの悪い担任教師・福島(立木文彦)から抜き打ちの小テストを受けることになったのだ。
テストに満足に回答できなかった真琴は、続いて家庭科の調理実習に参加したが、おっちょこちょいの真琴は大失敗して危うく火事を起こしそうになってしまったのである。
その後も同級生のプロレス遊びに巻き込まれるなど散々な目に遭った真琴は、テストの点数のあまりの低さに愕然としていた。
そんな時、真琴は親友の早川友梨(垣内彩未)から近々開かれる進路説明会で文系か理系かどちらを選択するか聞かれたが、まだ何も決めていないと答えるに留まったのだった。
どうやら友梨は千昭のことが気になっているようだ。
不思議な経験
当番を命じられた真琴は誰もいない理科室に資料を運び込んだところ、黒板に「Time waits for no one.」と書かれているのを目にした。
そんな時、奥の部屋のドアの向こうから何やら物音を聞いた真琴は中へ足を踏み入れてみたが、そこには誰もおらず、ただ実験装置が所狭しと並んでいるだけだった。
真琴は部屋を出ようとしたが、何故かロックがかけられてしまった。
その時、真琴の目の前に、小さなクルミのような物体が落ちてきたのだ。
真琴がそれを拾い上げたその時、目の前を怪しげな人影が通り過ぎたのである。
慌てて転倒した真琴はクルミのようなものに触れ、その瞬間不思議な異次元空間へと吸い寄せられていったのだった。
クジラの泳ぐ海、馬の群れが疾走する草原、人々の群れなどを潜り抜けた真琴は、いつの間にか青空の下へと舞い上がっていたのだ。
次の瞬間、理科室で真琴は我に返った。
真琴はそのことを千昭と功介に話すも信じてもらえず、笑いものにされてしまったのである。
千昭と功介は真琴がいう謎の人影には全く心当たりがなかったのだった。
セミの鳴く炎天下、真琴、千昭、功介はグラウンドでキャッチボールをしながら、夏休みにどこか一緒に出掛けようと離し合った。
功介は図書館で勉強していると言い、真琴に将来の進路を尋ねると、真琴は将来ホテル王になろうかなどとふざけ半分で返したのだ。
千昭はまだ何にも決めていないようだった。
母からの用事を思い出した真琴は千昭や功介と別れ、急いで自転車を漕いで坂道の商店街を下っていたが、遮断機の降り始めた踏切を前にしてブレーキが利かなくなってしまったのだ。
電車が迫るなか、真琴は「今日は最悪の日だ。最期の日なんだ」と死を覚悟、そのまま線路へと投げ出されていった。
次の瞬間、なぜか真琴は踏切の手前で通行人に激突して転倒していたのである。
通行人に叱られた真琴は商店街の時計に目をやると、なぜか時間が少しだけ巻き戻っていたことに気付いたのだった。
電車は何事もなく通り過ぎ、真琴はただ「何で?」と驚くばかりだった。
タイムリープ
とある美術館。
“魔女おばさん”こと真琴の叔母・芳山和子(原沙知絵)は「白梅ニ椿菊図」という絵画の修復作業をしていた。
和子の元を訪れた真琴は一部始終を打ち明けると、和子は「それ、“タイムリープ”よ」と答えたのだ。
驚く真琴に、和子は時の流れは不可逆であり、真琴だけが時を遡って過去に戻ってしまったのだと説明したのである。
続けて和子は、この現象は決して珍しいものではなく、真琴と同じ年頃の女の子にはよくあることである、実は自分も過去に経験したことがあると付け加えたのだった。
その日の夕方。
どうしても和子の話が理解できなかった真琴は自宅でタイムリープを試してみたが、上手くいかず頭を打ってしまったのだ。
真琴の部屋の異変に気付いた美雪は、真琴が窓から飛び降りようとしていると勘違いして慌てて引き留めたのである。
河原に出た真琴は、どうせタイムリープなんかできるわけがないと諦めかけていたが、思いっきり川に向かって猛ダッシュしたところ、何と前日の7月12日の自宅の台所に戻っていたのだった。
真琴が冷蔵庫のプリンを食べようとした瞬間、彼女は元の時間に戻って川に転落してしまったのだが、その様子を見ていた子供たちが一瞬だけ真琴の身体が消えたことに驚いていたのである。
助走をつけてジャンプすることでタイムリープが可能になることに気付いた真琴は再び前日に戻り、ようやく食べたかったプリンにありついたのだった。
これに気を良くした真琴は翌日(7月13日)の朝は誰よりも早く起きて余裕たっぷりに登校、どうせ遅刻するだろうとタカをくくっていた千昭と功介を驚かせたのだ。
すれ違う想い
タイムリープを使いこなせるようになった真琴は余裕でテストで100点を取り、調理実習の失敗を上手く同級生の高瀬宋次郎(松田洋治)にすり替え、千昭と功介をカラオケに誘っては気のすむまで歌い続け、大好物の鉄板焼きを食べるために2日前に飛んだりとやりたい放題。
そんな浮かれ気分の真琴に、和子は「大事なことには使っていないようだね。真琴がいい目を見ている分、悪い目を見ている人がいるんじゃないの?」とたしなめたのである。
そんなある日のこと。
真琴が千昭や功介と歩いていると、後輩の女子・藤谷果穂(谷村美月)が功介に告白してきたのだった。
しかし、真琴と千昭がそれからどうなったか聞いてみると、何と功介はあっさりと振ってしまったのだという。
帰り道、功介と別れた真琴は千昭の自転車に乗せてもらい、功介がもし告白を受け入れたら彼女を大切にするだろうけど野球ができなくなるのではと語ると、千昭は唐突に「真琴、俺と付き合えば?」と告白してきたのである。
気持ちの整理ができない真琴は何度も何度も時間を遡り、結局千昭の誘いを断ってしまったのだった。
和子は真琴が本当は千昭のことを好きだということを見抜いていたが、真琴は千昭とは友達以上の関係になることは想像できなかったのだ。
和子は「“なかったこと”にしたんだ・・・千昭くん可哀想。せっかく想いを伝えたのに」と呟いたのである。
タイムリープの代償
学校で真琴は友梨と、この春に転校してきたばかりの千昭は学校を転々としているということから前の学校で何かやらかしたのではと語り合っていたところ、先日の調理実習で真琴が失敗を擦り付けた高瀬が同級生からいじめを受けているところに遭遇したのだった。
たまたま居合わせた千昭が仲介に入ったが、真琴はどうしても千昭を避けてしまうのだ。
そして高瀬は自分がいじめられるきっかけを作った真琴を恨むようになっていったのである。
それからも真琴は千昭を避け続け、千昭はそんな彼女が理解できずにいた。
そんなある日、友梨から「すっごいいいことあったよ」とのメールを受け取った真琴は、友梨が千昭と仲良くしているところを目撃したのだった。
その時、あの高瀬がいじめっ子たちに消火器をぶちまけて仕返しを始めたのだ。
高瀬は止めようとした真琴に消火器を投げつけ、危うく千昭に当たりそうになったため、真琴は咄嗟にタイムリープを使って千昭を助けたが、消火器は友梨を直撃してしまったのである。
真琴は保健室で手当てを受ける友梨に「私が何とかするから」と告げたところ、千昭が友梨を見舞いに訪れ、それがきっかけで千昭と友梨は本格的に付き合うことになったのだが、どうも真琴にとっては面白くなかったのだった。
風呂に入った真琴は、腕に「90」の数字が浮かび上がっていることに気付いたのだ。
真琴は功介とキャッチボールをしながら、なぜ彼女を作らないのか問うと、功介は「真琴が独りぼっちになってしまうじゃん」と答えたのである。
真琴から相談を受けた和子は、「功介くんと付き合っちゃえば? 上手くいかなかったらまた(時間を)戻せばいいんだし」と背中を押したのだが、真琴は「人の心をもてあそぶことはできない」と断ったのだった。
和子は真琴に、修復が終わったばかりの「白梅ニ椿菊図」を見せた。
和子いわく、その絵画は作者不詳であり、美術的価値もあるのかわからないのだが、わかったことは何百年も前の戦争と飢餓を描いたもので、世界が終ろうとしたときに描かれたものというのだ。
夏休みが近づき、同級生たちは進学を目指して勉強に励むなか、まだ進路を決めていなかった真琴は担任の福島に問い詰められたが、腕の数字が気になる真琴はそれどころではなかったのである。
腕の数字はいつのまにか「50」になっていたのだった。
タイムリープができない?!
ある日、真琴は果穂の友人たちから功介と付き合っているのかと疑いをかけられたのだ。
果穂は中学生時代、老人ホームに入居する祖母の面倒をみてくれたボランティアクラブの先輩のことがずっと気になっており、高校に入ってからその先輩が功介であることを知ったのである。
真琴は疑いを晴らすため、引っ込み思案な果穂と功介の間を取り持つべく「私が何とかする」と宣言、タイムリープで果穂が功介に告白した時まで戻ったのだった。
真琴は言動を功介や果穂に怪しまれ、何度もタイムリープしては失敗を繰り返し、同級生のプロレスごっこに巻き込まれた功介と果穂の間を取り持つことにようやく成功したのだ。
成功を確信した真琴だったが、腕の数字は「01」にまで減っていたのである。
真琴は再び理科室に忍び込み、人影に気付いて声をかけたところ、それが友梨であることに気付いたのだった。
友梨は他に人影は見ていないというのだ。
その時、真琴の携帯に功介から「なんかオレ、告られたみたい。うらやましいだろ?」とのメールがあり、真琴は誰のおかげでと思っていたところ、「自転車借ります」とのメッセージに言葉を失ったのである。
ブレーキが壊れていることを知らずに功介は真琴の自転車を勝手に借り、果穂を乗せて走り出していたのだった。
友梨はすれ違った人影の正体が千昭であることを思い出したが、言う間もなく真琴は学校を飛び出していったのだ。
真琴は功介に電話をかけるも繋がらず、近道を通って踏切に先回りしたが、電車は何事もなく通り過ぎていったのだ。
真琴は千昭からの電話で功介は無事帰宅したことを知らされ、野球の話題でもしながら談笑していたが、千昭は突拍子もなく「あのさあ、お前タームリープしてね?」と告げたのである。
「何で千昭が・・・」
言葉を失った真琴はタイムリープを使い、途中で話題を遮って事なきを得たのだが、真琴の腕の数字は遂に「00」となってしまったのだった。
これでもうタイムリープができなくなったことに気が付いた真琴だったが、次の瞬間、真琴の自転車に二人乗りして坂を下る功介と果穂にすれ違ったのだ。
真琴は慌てて功介たちの後を追ったが転んで全身傷だらけの大怪我をしてしまい、功介と果穂は間に合わずに遮断機の降りた踏切に投げ出されたのである。
真琴は泣きながら「止まれぇー!」と絶叫したその時、真琴の全身の傷は消え、人々も、電車も、上空のヘリコプターも、そして時間も何もかもが静止していたのだった。
「やっぱり真琴か」
真琴が振り向くと、そこには真琴の自転車を回収した千昭がいたのだ。
千昭は功介が無事自宅に戻ったと告げ、真琴は千昭にも自分と同じタイムリープ能力があることに気付いたのである。
千昭の正体
千昭は真琴に、実は自分が未来からやってきた人間であることを明かしたのだった。
「俺の時代では、自由に時間を行き来できる装置が開発されている」と告げた千昭は、あのクルミのようなものがその装置だと明かすと、この装置は対象者の身体に触れることでタイムリープ能力をチャージすると説明したのだ。
この時代に来たものの、装置を落としてしまった千昭はようやく理科室で発見したのだが、既に能力は真琴にチャージされていたのである。
千昭はタイムリープ能力が悪用されなかったことに胸をなでおろしつつ、自分がこの時代に来た目的はどうしても自分の時代では既に失われていた「白梅ニ椿菊図」を一目見たかったためだと語ったのだった。
あの絵画は真琴の時代でしか実在が確認できなかったという代物だ。
千昭はリストバンドで隠していた腕の数字「00」を見せ、自分は功介と果穂を救うために最後の能力を使い果たし、もう二度と元の時代に帰れなくなったことを打ち明けたのだ。
こうするしかなかったという千昭は「どうもしねえし」と開き直り、真琴たちと過ごした時間があまりにも楽しすぎて帰るチャンスを失ったことまで明かしたのである。
千昭は、自分の時代になかった川の流れ、空の広さ、自転車という存在、溢れかえる人々の群れ、そして野球と触れ合えたことへの喜びや感動は語ったのだが、真琴が問う千昭の時代と「白梅ニ椿菊図」の関連性については何一つ語ることはなかったのだった。
真琴はもうすぐ「白梅ニ椿菊図」の修復が終わるから功介も交えて夏休みに三人で見に行こうと持ち掛けたが、千昭は「悪い、無理だ。俺、明日から姿を消すから」と断り、過去の人間にタイムリープの存在を知らせてはならないルールを破ったケジメをつける考えを示したのだ。
真琴は決して誰にも言わないと誓ったが、千昭は真琴に手を振ってみせ、そのまま姿を消していたのである。
いつしか時間は再び動き出し、赤信号が真琴と千昭との別離を示すかのように点灯していたのだった。
いなくなった千昭
翌日、学校には千昭の姿はなかった。
千昭は“自主退学”したとのことで、クラスメイトたちは千昭がヤクザから借金を作って追われる身になっただの、両親が離婚しただの、千昭は年上の女性とできちゃった結婚するだの、はたまた人殺ししただの根も葉もない話題で盛り上がっていたのだ。
友梨は深く落ち込んでしまい、功介は「千昭はそんな奴じゃねえよ」と釈明に追われた。
功介は真琴に「アイツ、本当は真琴のこと好きだったくせに・・・」となぜいなくなったのか納得していないことを語り出すと、真琴は「私は最低だ。千昭が大事なことを話してくれたのに“なかったこと”にしてしまった。なんでちゃんと聞いてあげられなかったのかな・・・」と語り、屋上へ駆け上がると一人嗚咽を漏らしたのである。
時をかけぬけた少女
和子は意気消沈の真琴を慰めながら、自分の過去について語り始めた。
和子は高校生の時にある男を好きになり、それから二人はまるで幼馴染だったかのように意気投合したのだが、“大人になるまえにダメになった”のだという。
和子は「タイミングが悪かったのよ」と振り返り、男はいつか戻ってくると言っていたことを語ったのだった。
和子は真琴に「あなたは私みたいなタイプじゃないでしょ? 待ち合わせに遅れてきた人がいたら、走って迎えに行くのがあなたでしょ?」と励ましたのだ。
最後のチャンス
その夜、何も知らない家族が居間でスイカにかぶりついているなか、真琴は部屋に閉じこもったまま和子の言葉の意味をかみしめていた。
そんな時、服の袖に入り込もうとした虫を振り払った真琴は、自分の腕の数字が「01」に戻っていることに気が付いたのである。
あの時、千昭がタイムリープをしたことにより、自分もまた一度だけタイムリープができるようになったことを確信した真琴は、千昭に言えなかった言葉を伝えるため夜の坂道を駆け抜け、そして最後のタイムリープを敢行したのだった。
真琴の脳裏には、千昭や功介と過ごした日々が走馬灯のように駆け抜けていったのだ。
未来で待ってる
気がつくと真琴は、7月13日の理科室に戻っていた。
自分がまだタイムリープ能力をチャージする直前だった。
クルミ型の装置を拾い上げた真琴は黒板の「Time waits for no one.」の文字を見上げながら、その場に現れた友梨に「私、千昭のことが好きだ。ゴメン」と告げたのだ。
真琴の気持ちに気付いていた友梨は、先ほど千昭とすれ違ったことを教えて背中を押し、功介と共に千昭と野球をしようと持ち掛けたのだが、肝心な功介と果穂の仲の取り持ちがリセットされてしまっていたことに気が付いたのである。
そこで真琴は果穂も野球に誘うよう功介に働きかけ、自分の自転車を使ったら罰金5,000円を取るから絶対に使わないよう釘を刺しておいたのだった。
真琴は功介に「待っててくれてありがとう」と告げて一心不乱に走り出し、いつものグラウンドにいた千昭と対面したのだ。
真琴は千昭の秘密の全てを知っていると告げると、役目を終えて粉々に砕け散ったクルミ型装置を見せ、千昭の腕のリストバンドを捲って彼の数字(タイムリープ可能回数)がまだ「01」であることを確認したのである。
真琴と千昭は夕暮れの河川敷に座り、真琴はあの絵が千昭の時代までも残るよう全力を尽くすと約束した。
別れ際、千昭は真琴に功介をよろしく頼むと託し、泣き出した真琴をそっと抱き寄せると「未来で待ってる」と言い残したのだった。
泣き止んだ真琴は「すぐ行く。走っていく」と返したのであった。
やりたいこと
セミの鳴く青空の下、真琴は功介、果穂やその友人たちと共に野球に打ち込んでいた。
功介にとっては、自分に何も言わず“留学”を名目に退学していった千昭のことがどうも腑に落ちないのだ。
真琴は小声で「千昭はやりたいことが決まったんだよ」と呟き、「実は、私もさ、やること決まったんだ。でも何をやるかは秘密」と多くを語らなかった。
真琴は天空高く広がる入道雲を見上げながら、果てしない未来に想いを馳せていたのである。
『時をかける少女』の感想とまとめ
監督・大林宣彦、主演・原田知世で人気を博した1983年公開の同名の角川映画など、『時をかける少女』は日本を代表するタイムトラベル作品としてこれまでに幾度も映画化やテレビドラマ化されていました。
初のアニメーション作品となる本作は舞台を公開当時の2000年代半ばにアレンジ、基本的なストーリーの流れや設定などはそのままに時代設定を原作および映画作品の20年後に置き換えています。
主人公も原作や多くの映像作品での主人公・芳山和子の姪である「紺野真琴」という本作オリジナルの新キャラクターを据え、主人公・真琴を取り巻く二人の男、間宮千昭と津田功介を原作における深町一夫や浅倉吾朗のポジションに据えています。なお、深町や浅倉であろう人物は、終盤にて登場する和子の職場に飾られている写真で確認することができます。
本作の出演者は、かつて細田監督がお世話になったスタジオジブリや同世代のライバルである新海誠監督(『君の名は。』『天気の子』など)などと同様に“フレッシュさ”を醸し出すためにプロの声優ではなく声優が本職ではない俳優や経験の浅い若手を積極的に起用しており、自身初となる主役に抜擢された仲里依紗は本作がブレイクのきっかけとなり、後に実写版『時をかける少女』の2010年バージョンでも主人公(原作の主人公・芳山和子の娘である映画オリジナルキャラクター・あかり役として)を演じることとなりました。
タイムトラベル系といえば古くは『ドラえもん』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、近年では『仮面ライダー電王』『仮面ライダージオウ』など古今東西の様々な作品に用いられていますが、本作は原作同様にあくまでも主人公や周囲を取り巻く人々の青春ドラマ的な描写がメインとなり、タイムリープ能力を得たがゆえに時には羽目を外し、時には悩みもがく主人公たちの心理描写も巧みに織り込まれています。
本作が長編作品の監督作としては2作目となる細田守監督にとっては、かつて『ワンピース』『ゲゲゲの鬼太郎』などのテレビアニメ作品に参加するなど下積みを積んできた東映アニメーションを離れてフリーランスとなってから初となる作品にして勝負作であり、公開当初はわずか21館という非常に小規模のスタートとなりましたが、蓋を開けてみると口コミなどで一気に評判は広まり、また原作者の筒井康隆からもお墨付きをもらったこともあってスマッシュヒットを収め、次回作『サマーウォーズ』から始まる細田監督の快進撃の原動力ともなりました。
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