『アメリカン・アニマルズ』は、希望に胸を含まらせて大学進学したウォーレンとスペンサーは、現実の生活にがっかりします。思いついたのは、図書館に展示された千2百万ドル(12億ドル)相当の希少本を盗む事でした。実際に犯行に及んだ大学生4人と演じる役者達が登場する驚きの演出を手掛けたのは、イギリス人ドキュメンタリー映画製作者のバート・レイトンです。
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『アメリカン・アニマルズ』作品情報
タイトル:アメリカン・アニマルズ
原題:American Animals
監督:バート・レイトン
脚本:バート・レイトン
製作:デリン・シュレシンガー、キャサリン・バトラー、ディミトリ・ドガニス、メアリー・ジェーン・スカルスキー
公開日:2018年6月1日(アメリカ)、2019年5月17日(日本)
出演者:エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ジャレッド・アブラハムソン、ブレイク・ジェナ―、アン・ダウド
『アメリカン・アニマルズ』概要
監督のバート・レイトンは、強盗を実行した4人がまだ服役中の2008年に手紙の交換をして脚本の執筆を開始。出所後に面会してインタビューを撮り映画の中に織り込む事を思いつきます。SNSが活発な現代、普通なだけでは注目が得られずプレッシャーを感じるユーザーの心情を4人の動機に見出した事が切っ掛けで映画化を決定しました。
キャスト
テレビドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』で人気のエヴァン・ピーターズ、『聖なる鹿殺し』で注目を集めたバリー・コーガン、Rotten Tomatoes 100パーセントの評価を受けた『Hello Destroyer (日本未公開)』のジャレッド・アブラハムソン、『スウィート17モンスター』で脚光を浴びた歌手でもあるブレイク・ジェンナーが4人の犯人を演じます。また、名脇役で知られ『ハンドメイズ・テイル』でエミー賞助演女優賞を受賞したアン・ダウドも出演。
『アメリカン・アニマルズ』あらすじ・ネタバレ
スペンサーは大学の面接を受ける。父親はエンジニアで母親は主婦だと話し始めた所で面接官が割って入り、スペンサーが芸術家として表現したい事について説明するよう求めた。
2003年9月ケンタッキー州、トランシルヴァニア大学。スペンサーは男子学生クラブの歓迎会に出席する。周囲はビールを大ジョッキで飲み、スペンサーにパンをぶつけ大騒ぎ。学生寮に戻ったスペンサーは自分の自画像の続きに取り組む。
-スペンサー本人- 成長する過程で人生が変わる様な出来事に強い願望を持っていた。有名な画家達は悲劇に見舞われて苦しみ、ゴッホは自殺しモネも視力を喪失。人生をより理解していたと思う。自分は満ち足りた生活で絵を描くのが得意だった。
-スペンサーの両親- 息子がウォーレンと友人関係にある事に反対だったが、仕方なく受け入れていた。-高校の教師- スープの出汁にはスパイスが必要で、ウォーレンは、そのスパイスの様なものだった。
退屈を持て余したスペンサーは、ウォーレンに電話。2人は連れ立って精肉屋の倉庫から肉を盗み出す。ウォーレンは、バイトしていた時に店主が半分は肉を捨てていたのを目にしており、アフリカの子供達は飢えているとしゃべりながら大量の肉を運び出す。
店主に見つかり慌てて車で逃げた2人は興奮。夜更けに駐車場でたむろする同年代を見つめ、想像と異なり大学生活がつまらないと話し合う。目の前を誰かが火をつけたカートが走って行く。スペンサーは、何か起きないかと待っている自分の心境を語った。
千2百万ドル(12億円)の博物画集
司書のベティ・グーチの案内で大学図書館のツアーに参加したスペンサーは、蔵書に見て回る。その中に、画家で鳥類研究家のジョン・ジェームズ・オーデュボンが描いた希少本『アメリカの鳥類』の博物画がガラスケースに展示されていた。
まるで鳥の鳴き声が聞こえて来るかのような絵にスペンサーは暫し見とれる。価値はおよそ千2百万ドル。ウォーレンの車で出かけた際、スペンサーはその希少本の事を話す。ウォーレンは、本の事よりどの様なセキュリティが施されているかに興味を示した。
-ウォーレン本人- 千2百万ドルに目が眩んだが、実際盗めるのかを思案。普通の方法は到底かなわず、途方もない努力が必要だと思った。周りは自分が率先した様に言うが、スペンサーに丸め込まれたと今は感じる。
ケンタッキー大学。ウォーレンは大学のパソコンで銀行強盗の完全犯罪について検索。スーパーでバイト中のスペンサーを訪ねたウォーレンは、何もしなければ何も起きないと力説。宝くじを買わない人に限って当選した時の事を考えると持論を展開した。
図書館の設計図が必要で、入り口、出口、そして逃走経路等を調べるべきだとウォーレンは続けた。スペンサーは、設計図の入手は必要なく描けば良いと提案。2人は過去に強盗を扱った映画を観た後、図書館に出入りする人間をチェック。
スペンサーは独自に手描きで設計図を完成させ動線をマジックで書きこんだ。ウォーレンは盗品のバイヤーを探すため、ツテを当たる。ニューヨークに居るバイヤーのメールアドレスを渡され、同じアカウントから2度メールを送信するなと忠告を受けた。
準備開始
ウォーレンはカッコイイよなと言いながら、スペンサーに報告。面会に5百ドルの費用が掛かる事に文句を言いながらスペンサーとウォーレンは、マリファナを吸いながらニューヨークへ向かう。長距離を走行後マンハッタンへ到着した2人は活気ある街の様子に興奮。
-スペンサー本人- 自分達がケンタッキーを離れた事は誰も知らず、何かが本当に始まったと言う感覚を覚え、人生が変わったような気がした瞬間だった。
2人はバーやクラブで酒を飲み、マンハッタンの夜を楽しむ。2004年2月14日、バイヤーと落ち合う。ウォーレンがポニーテールに紫のマフラーをした男と話をしている様子をスペンサーが見ていた。
しかし、ウォーレンの証言は、50代で身なりの良い紳士風の男性。お金を数える事も無く紙を渡されたと言う。更に、その男性はバイヤーではなく、アムステルダムに居るバイヤーのメールアドレスを伝えるメッセンジャーだった。
渡航費用を用立てたスペンサーがウォーレンを空港まで送る。アムステルダムで指定の場所へ訪れたウォーレンは2人組みの男達と会う。たじたじのウォーレンに対し、2人は画集に興味を示し公証を必ず取るよう言った。
第三の男
帰国したウォーレンは、計画を実行するにはロジスティックスを担当する人間が必要だとスペンサーに話す。ウォーレンは、自分が通うケンタッキー大学で会計を学ぶ幼馴染のエリックに声を掛けた。
-エリック本人- FBIで働く事を目指していた。会計学を専攻した新卒を雇う事を知っていたので、会計学を学んでいた。ウォーレンの話に乗ったのは、また友人関係を取り戻したかったから。-高校の教師- 優秀な生徒で良い子だった。
エリックを交えてトランシルヴァニア大学を訪れたウォーレンとスペンサー。エリックは、建物に人が居ても疑われない昼間に決行するべきで、夜は警報が仕掛けられると2人が考えてもいなかった盲点を指摘。ウォーレンは感心する。
ウォーレンは、大学の体育局長から呼び出された。スポーツ奨学金で入学しているにも拘らず、ウォーレンが練習にも参加しなくなっていたからだった。ウォーレンは大学や町自体に失望していると横柄な態度を取った。
ウォーレンは、図書館の展示室には監視カメラが無く、動作感知器しかない事を知る。スペンサーが作ったミニチュアの展示室を使いながら、画集を盗んだ後地下へ下りて非常口から出る逃走経路をスペンサーとエリックに説明した。
担当司書が計画における一番の脅威だとウォーレンは真剣な表情。シミュレーションでは、展示室に入ったら直ぐグーチ女史をスタンガンで気絶させ車椅子で寝かせる。鍵を盗ってガラスケースから画集と他の高価な蔵書を持参した袋に入れる作戦を立てた。
第四の男
エリックは、2人が展示室で作業、1人が1階で見張り、もう1人逃走車両を運転する人間が居ると指摘。スペンサーは、計画に信憑性が無いと呟く。運転手には車を持っている高校時代の知り合い、チャールズ(チャズ)に決まった。
-チャズの母親本人- 息子は小さい時から父親の後を着いて行く子供で、ビジネスに関心があり、父親みたいに成ろうとしていた。-高校の教師- チャズの父親とはジムに通う仲間でよく知っているが、本当に人格者。
強盗の計画を聞いた時、チャズは最初ウォーレン達がマリファナの吸い過ぎでハイになっているのかと思う。ウォーレンから、標的は千2百万ドルの価値がある希少本で、初老の女性が監視しているだけだと聞いたチャズは、にわかに関心を持つ。
ウォーレンは、スペンサーが変装用具の調達、エリックが逃走用車両、そしてチャズが図書館から最初に車両を乗り捨てる位置までの最短近道を探すよう、それぞれ指示を出した。チャズはエリックを乗せてルートを何度も走りタイムを縮める練習を行う。
ウォーレンは、強盗直後の週末にニューヨークで公証を取る予約を担当。そして、人が少なくなる8日後の期末試験に画集見学の予約を図書館へ入れた。みんな自分も試験だと言うが、ウォーレンは、試験を受ける生徒は疑われないからその日に決めたと答えた。
司書のグーチ女史をどうするかで4人は揉める。初老の女性を襲う事に誰もが躊躇していた。事が全て終了した時に、千ドル送れば喜ばれるとウォーレンは言うが、皆口ぐちに自分はやりたくないと答える。ウォーレンは、嫌々ながら自分がやると申し出た。
4人の老人
2004年12月16日、強盗決行日。ガムテープや着替え等持ち物をチェック。ウォーレンは肝心のスタンガンを忘れるが、取りあえず決行。チャズはテストをさぼり、スペンサーとエリックが試験を受けている間に逃走車のナンバープレートを交換。
スペンサーの思いつきで老人の方が目立たない事になり、皆変装をして集合する。図書館へ向かう途中、スペンサーは吐き気をもよおす程緊張。しかし、2階の展示室へ行くと司書4人でミーティングが行われており、計画は直ぐに中止となった。
スペンサーは1人何もしでかさなかった事に安堵するが、他の3人は苛立ちで怒鳴り合う。ウォーレンは図書館へ電話し、翌日に予約を取りなおした。その夜、スペンサーは父親の誕生日で実家へ帰る。夕食時に浮かない顔の息子を両親が心配した。
ウォーレンの家を訪ねたスペンサーは、計画を降りると告げる。家族を傷つけたくないし、未来を棒に振りたくないと話す。ウォーレンは、全部スペンサーが言い出した事だと腹を立てた。結局、スペンサーは図書館の外で見張りをする役目で落ち着く。
強盗決行日
翌日、スーツを着て変装無しのウォーレンとエリックが図書館へ入って行く。スペンサーは側の建物の屋根に上がり双眼鏡で入口を見張った。チャズは、エンジンを掛けたまま逃走車両で待機。
2階へ上がったウォーレンは、グーチ女史が1人デスクに居るのを見て呼吸を整える。ガラスドアを叩くとグーチ女史が中からカードキーで扉を開けた。にこやかにウォーレンに挨拶し、記録台帳に名前と日付を記入するよう促す。
1階で合図を待っていたエリックの携帯が振動し、ウォーレンから展示室へ上がって来るよう連絡が入る。ガラスドアの前まで来たエリックは、デスクに座るグーチ女史を見て驚く。後ずさるエリックを見たウォーレンは、友人が到着したと伝えた。
グーチ女史が再びカードキーで扉を開けてエリックに記録台帳に署名するよう対応していると、ウォーレンが突然背後から口を押えて腕にスタンガンを当てる。しかし、上手くできず女史を床に押し倒す。痛いと叫ばれるが、ウォーレンは拘束帯で縛った。
泣き出しそうな表情で立ち尽くすエリックを怒鳴るウォーレンは、女史の口をガムテープで塞ごうとするが、安物のプラスチック製手袋がくっついて破れた。手袋を外して女史の口を塞ぐ。怖さでズボンを濡らしてしまった女史を見たエリックは更に動揺。
ガラスケースの鍵が見つからず、2人はあちこち荒らして探す。呻く女史の首に掛かっている鍵をウォーレンが発見。じっと睨みつけられたウォーレンは、誤りながら鍵を盗った。ガラスケースを開けて2冊の画集を取り出した2人は布を被せて運び出す。
かなり重く必死にエレベーターへ持って行くものの、エリックが焦ってボタンを押したため1階で扉が開いてしまう。そこに居た人達に画集を運んでいる所を目撃される。更に、地下に有るはずの非常口は存在せず、1階にまた戻って非常口から運び出した。
異様なウォーレンとエリックの様子に受付の女性が立ち上がる。2人は階段を急いで降りるが、画集を落としてしまう。慌てた2人は画集を置いて逃走した。チャズの車に乗り込んだウォーレンは、いきなり嘔吐。画集は何処だとチャズが怒鳴った。
ウォーレンは、展示室で鞄に入れたダーウィンの本を取り出す。エリックも別の分厚い希少本を盗み出していた。一方、スペンサーは、警察のサイレンを聞きながら何食わぬ顔で双眼鏡をゴミ箱に捨て、別の期末試験を受けに行った。
事の顛末
2004年12月20日、ニューヨーク。マンハッタンに在るオークションハウス、クリスティーズへウォーレンとスペンサーが訪れる。鑑定士は本物であると認め様々質問。その場しのぎの返答をする2人に対し、上司に話をしてから評価額等詳細を連絡すると言った。
車で待っていたチャズとエリックに状況を伝えるが、連絡先を滞在先のホテルではなくスペンサーの携帯にした事を聞いたチャズが怒り始める。チャズはスペンサーの携帯に電話しスピーカーにした。「調子どう?スペンサーの携帯だ。メッセージよろしく」。
チャズは、これが美術品商の留守電に聞こえるかとスペンサーに迫る。エリックが録音し直せば良いとなだめるが、チャズは、スペンサーの携帯から自分達に繋がってしまうと怒鳴った。地元に戻った4人は日常に戻るが、計画は完全に失敗だと悟っていた。
-スペンサー本人- 一線を越えるまでは、その先が分からない。越えてしまった後は、本当に怖かった。-エリック本人- グーチ女史の叫び声がずっと頭に残っていた。一生消えない傷を誰かに負わせた事に加担したと認識していた。
-ウォーレン本人- 強盗を実行する前話し合っていたのは、誰も傷つけず脅かすだけという事だった。でも結局傷つけてしまい、忘れられると思ったが出来なかった。
夜中に学生寮からウォーレンに電話したスペンサーは、図書館に予約したメールアドレスがクリスティーズに予約したアドレスと同じ物を使ったと話す。間もなくFBI捜査官達が4人を逮捕。
-ベティ・グーチ女史本人- 彼等は努力をせず簡単な路を選んだだけ。とても自分勝手な人間。越えてはいけない一線を越え、他人を傷つけてでも欲しい物を得ようという考え方が未だに理解できない。
-4人は連邦刑務所に7年以上服役。画集は損傷無くトランシルヴァニア大学の展示室へ戻され、現在もグーチ女史の保護下に有る。出所後、エリックはカリフォルニア州で作家として求職中、チャズはロサンゼルスでジムのインストラクターをしている。
ウォーレンはフィラデルフィアで大学に復学。専攻は映画製作。スペンサーは、ケンタッキー州の地元に住む。芸術家として生活し、専門は鳥の絵画である。
『アメリカン・アニマルズ』を観た感想
あまりに稚拙な計画と実行過程に思わず苦笑しますが、グーチ女史のコメントにある通り、自分の人生がつまらないという理由で強盗してお金を儲ける事に行き着く4人に対し、身から出た錆としか言いようがありません。
最後はお互いリーダー格のウォーレンを責める証言を見ると、7年刑務所に入っても尚自分が選択した行動に責任を感じられず、どこまでも未熟で自己中心的な素顔が浮き彫りになります。
州をまたいで引っ越してしまえば、周囲の人には過去の自分に殆ど気づかれる事無く新生活を過ごせるのは、広大な国土を持つアメリカならではの物語です。過ちを犯してもやり直せる社会整備に乏しい日本では、前科を持つ人に厳しいため同じようには行きません。
劇中スペンサー本人が、躊躇していたにも拘らず犯罪に手を染めてしまう証言が有ります。後悔を繰り返し口にしているものの、アムステルダムもウォーレンの作り話だったかもしれないと話す所で、共感する気も失せてしまします。
地元に戻り鳥の絵を描いて仕事をしているのを見ると事件の影響が色濃い事は分かりますが、脅されたわけでもなく、自分が言い出しっぺだった事に変わりは無く全てのステップに完全関与しており、図書館の設計図を書いたのもスペンサーです。
家族を悲しめ後ろ指を指されるような思いをさせたのは、強盗に参加した本人であって、ウォーレンのせいでは無いわけです。反対に、グーチ女史を傷つけた事が先ず言葉に出るエリックの方が、自分の行動を顧みた証であり反省している印象が残りました。
監督と脚本を兼務したバート・レイトンは、今回が初めての脚本執筆。ドキュメンタリー映画製作者であるレイトンは本当に起きた事のみに興味を持ちますが、映画化を決定づけたのは4人の強盗実行犯が後悔していたことだったとインタビューで明かしています。
FBIに逮捕された後20代の殆どを連邦刑務所で過ごした4人は、ケンタッキー州の小さな町レキシントンに生まれ中産階級の家庭に育ったごく普通の大学生。レイトンは、演じる俳優陣に役作りの為に本人とあまり接触しないよう忠告しています。
チャズ役のブレイク・ジャンナーは、本作が完全実話であっても物真似では無いので、自分の解釈を大事にするようレイトンに言われたと語ります。しかし、テレビ番組に出演した元受刑者の4人は、本質を完全に捉えていたと感嘆。
ウォーレンを演じた『X-MEN』のエヴァン・ピーターズとグーチ女史に扮した『ヘレディタリー/継承』のエミー賞受賞俳優アン・ダウドの好演が光った本作は、実際に起きた強盗事件を忠実に再現する事に成功した映画であり、サンダンス映画祭で話題を集めた作品です。
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