映画『未来を乗り換えた男』あらすじとネタバレ!クリスティアン・ペッツォルト監督の最新作

「未来を乗り換えた男」映画監督の名匠クリスティアン・ペッツォルトの最新作です。第68回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門で出品された作品です。

物語は移民の粛清が厳しくなったドイツを逃れた青年ゲオルクはフランスに逃れ身を潜める生活。

思いもかけず他人の身分を手にした主人公がマルセイユで美しい女性に出会い、運命が大きく変わって行きます。ドイツ人監督クリスティアン・ペッツォルトが最高の一冊と呼ぶアンナ・ザーカース著『トランジット』を映画化したドイツ作品。

『未来を乗り換えた男』作品情報

タイトル:未来を乗り換えた男

原題:Transit

監督:クリスティアン・ペッツォルト

脚本:クリスティアン・ペッツォルト

原作:『トランジット』アンナ・ゼーカース

製作:フロリアン・コールナー・フォン・グストルフ、ミヒャエル・ベバー

公開日:2019年1月12日(日本)

出演者:フランツ・ロゴフスキー、パウラ・ベーア、ゴーデハード・ギース、バルバラ・アウア、マティアス・ブラント

『未来を乗り換えた男』概要

批評家から圧倒的な高評価を得ている映画です。ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞及び第85回アカデミー賞外国映画賞のショートリストにも選出された『東ベルリンから来た女』の監督クリスティアン・ペッツォルトが原作『Transit』を基に映画化しました。本作の脚本も執筆しており、ドイツに名監督ありとメディアが伝える作品です。

キャスト

主人公ゲオルクを演じるのは、プロのダンサーだったフランツ・ロゴフスキー。ベルリン国際映画祭でシューティング・スター賞を受賞している俳優です。相手役マリーに扮するのは、『婚約者の友人』でヒロインに扮した23才のパウラ・ベーア。

『未来を乗り換えた男』あらすじ・ネタバレと感想

パリのカフェでコーヒーを飲むゲオルク。サイレンを鳴らす警察車両が何台も通り過ぎて行く。そこへ知人が現れ、翌日マルセイユへ発つと言い、お金を払うので手紙をホテルまで届けて欲しいと頼む。ゲオルクは、マルセイユ行に同乗できると聞いて承諾した。

ホテルへ行き指定された部屋へ行くと清掃係の女性が部屋から出てくる。ゲオルクが部屋を探していると言うと、その清掃係は身分証明書類を見せろと高飛車な態度を見せた。ゲオルクはすかさず部屋を先に見せるよう主張。

彼女は、ゲオルクをドイツ当局の人間と勘違いし態度を軟化させ、宿泊客は全員登録済みだと話す。ゲオルクはドイツ語で日当たりが良く取りの無く声が聞こえる部屋を要求した。清掃係が鍵を取りに行っている隙に、ゲオルクは知人に言われた部屋に入った。

血に染まった雑巾がバケツに掛かっているのを見てバスルームのドアを開けると、バスタブや壁が大量の血で染まっていた。戻って来た清掃係りはドイツ侵攻直後に訪れたワイデルと言う名の常連客で、よく妻と一緒にこの部屋へ宿泊していたと言った。

しかし、翌朝になっても姿を見せないため、スペアキーで部屋へ入るとワイデルは動脈を切って血を流して倒れており死後硬直していた。その後、彼女は知り合いの警察官に連絡し身元不明遺体として埋葬して貰ったと話す。

ワイデルが部屋に残した原稿を手にしたゲオルクは、知人が待つカフェへ向かった。カフェに居た客達が全員両手を挙げて店の外に立たされている。足を止めたゲオルクに警察官が近づき、身分証明書の提示を求めた。ゲオルクは警察官を殴り走り出す。

マルセイユでの出逢い

あちこちに立っている警察官を避けながら何とかその場を逃げ切ったゲオルク。ツテを頼りマルセイユ行の貨物列車に潜り込んだ。しかし、大怪我を負ったハインツも一緒に連れて行く事になってしまう。

貨物車のシャッターを開けてハインツを担ぎ入れ、ゲオルクも乗り込む。鉄道監理員達が見回るフラッシュライトが近づいてきた。時間が経ち、ゲオルクはホテルの部屋で見つけた原稿に目を通すと詩が書かれてあった。

ふと託された2通の手紙の事を思い出す。1通目は出版者宛、そしてもう1通は女性宛だった。そして、ワイデルの部屋に有った封筒の中身は、メキシコ領事館発行の滞在許可通知だった。彼の妻・マリーから会いたいと綴った手紙も見つけた。

翌朝、警備犬を連れた取り締まりが始まり、貨物列車から人が引きずり出されているのを見たゲオルクは、ハインツを起こそうと体を揺らした。しかし、ハインツは既に死亡していたのだった。ゲオルクは急いで手荷物を持ち列車を飛び降りる。

街の地図を見ていると誰かが自分の肩を叩く。見知らぬ美しい女性が立っており、人違いだった様で直ぐにゲオルクから離れて行った。

ハインツの家を訪ね、彼が怪我で亡くなった事を妻に伝える。幼い息子が手話でゲオルクの言葉を訳す。身を潜めるホテルを探したゲオルクは、身分証明書を提示しない代わりにたった一晩の滞在の為に1週間分前払いを請求された。

翌日、ワイデルの原稿を預けようと思いメキシコ領事館へ行った。前日街で会った美しい女性が足早に領事館を出て行くのを見る。多くの人は、アメリカを目指しメキシコの通過査証を求めて並んでいた。自分の番になり2階へ上がるゲオルク。

対応した担当官にワイデルの原稿を見て欲しいと話し始めると、詩人の?と訊かれた。ゲオルクが頷くと担当官は慌てて席を立つ。戻ってくると丁寧な態度で領事が会うとゲオルクに告げた。

ゲオルクをワイデルだと思い込んだ領事は、少し前に奥様がいらっしゃいましたとドイツ語でゲオルクに話す。2人分のビザ、乗船券、そして郵便為替を渡し、メキシコへの直行便が無いため早急にアメリカの通行査証を取る手続きをするように言う。

そして、ドイツの掃討作戦が始まる前に乗船するように忠告した。ゲオルクは人違いだと言うが、妻の名前を訊く領事に遮られた。列車の中でワイデルに当てたマリーからの手紙を思い出す。

ゲオルクがマリーだと答えると、領事は満足そうに頷き、マリーが毎日領事館を訪れて夫の行方を尋ねては泣いていたと話す。何も食べていなかったゲオルクは郵便為替を現金化してピザとロゼワインで腹を満たす。そこへ、またあの美しい女性が店に入って来る。

他人の人生を手に入れたゲオルク

奥へ歩いて行き見回すと足早に出て行く。ゲオルクはホテルに戻りビザに貼られたワイデルの写真を剥がし、自分の写真を貼った。警察のけたたましいサイレンがホテルの前で止まる。窓から外を覗いたゲオルクは、ワイデルの写真を破り急いでトイレに流す。

ドアが勢いよく開き、取締官が入ってきて身分証明書を出せと言う。ゲオルクは作成したばかりの偽証を見せた。廊下の奥で女性と子供の叫び声が聞こえて来る。取締官はゲオルクに書類を返すと急いで出て行く。子供と引き離された女性が廊下を引きずられて行く。

アメリカ領事館へ通行査証を得るため手続きに出かけた。領事からワイデルが寄稿した記事について訊かれ、掲載先は共産党支持だとやんわり示唆された。ゲオルクは作り話を聞かせてもう書くのは辞めたと言い、本職のテレビやラジオの修理工をやると話した。

カフェで食事をしているとハインツの妻が入ってきてメモを店員に見せた。息子が体調を崩し医者を探していたのだ。2人は不法滞在のため救急病院へ行かれないでいた。ゲオルクは近くに住む医者の事を聞いて訪ねて行き、ハインツの息子を診て欲しいと頼んだ。

リヒャルドは快諾。実は、彼もメキシコへ向かおうとする移民の一人だったが、女性と出会い迷いが出ている事をゲオルクに明かした。医者として滞在許可を得ており使命も感じているが悩んでいたのである。

そして、リヒャルドの恋人こそゲオルクがマルセイユの街で何度も見かけた美しい女性であり、自殺した作家ワイデルの妻・マリーであった。夫を探し続けていたマリーにワイデルの死を話せないゲオルク。自分も恋に落ちていた。

船が出港する日、船上でトラブルに遭遇したリヒャルトは結局マルセイユから出られなかった。マリーもフランスを出たいと言う。ゲオルクは、彼女を連れてアメリカ領事館へ行き、夫婦2人分の通行証を発行して貰った。

永遠に変わった運命

モントリオール船出航の日を迎える。タクシーで港まで向かう中、マリーはメキシコ領事から夫も乗船すると聞いた話をし、ゲオルクに抱きつきながら、きっと自分を許してくれると満面の笑顔を浮かべた。心苦しく居たたまれない気分になるゲオルク。

忘れ物をしたので先に行くようにマリーに言うと、ゲオルクはタクシーを降りて元来た道を戻った。リヒャルトを訪ね、彼が持っていた全財産と引き換えに自分の乗船券を渡す。出航時間が迫り、リヒャルトは慌てて出て行き窓辺に立つリカルドを見上げた。

窓から海を眺め、ゲオルクは汽笛を聞いた様な気がした。遠く彼方にモントリオール船が見え、水平線に消えるまでじっと見つめていた。よく通ったカフェのオーナーに全てを打ち明けたゲオルクは、ワイデルの原稿を託すのだった。

店のドアベルが鳴り、店内に誰か入って来て奥へ歩いて行く。ゲオルクが顔をあげると、マリーが自分を見ながらまた店から出て行く。ゲオルクは直ぐ後を追うが、彼女の姿はもう無かった。警察車両のサイレンが聞こえる。

ゲオルクはモントリオールの船会社へ向かった。事務所へ行き、前日出航したモントリオール船に友人が乗船したかどうか確かめたいと頼んだ。対応した社員が乗客名簿をめくる。名前を訊かれ、ゲオルクはマリー・ワイデルだと答えた。

乗船していたと社員は言った。ゲオルクは、していた、とはどういう意味かと尋ねる。社員は、お悔やみを申し上げると言って、通常は近親者に伝えるが移民の一掃が始まってしまい状況が難しいと話す。ゲオルクは何を言われているのか分からない。

社員は、既に知っているものと思ったと言葉を切り、バレアレス諸島付近の機雷に接触して船が沈没し、乗組員および乗客は全員死亡したと言った。動揺したゲオルクは、何も言わず船会社を後にした。

ゲオルクはいつものカフェに戻る。機関銃を抱えた警官隊が通りを小走りに行くのを窓から見ていた。店のオーナーは身を隠す場所を案内すると声を掛けたが、ゲオルクはマリーがまた店に現れるのをじっと待ち続けているのだった。

『未来を乗り換えた男』を観た感想

過去のホロコーストと現代の難民問題を融合させようと試みた監督と脚本を兼務したクリスティアン・ペッツォルト。設定された舞台は1940年ですが、描かれる時代は現在です。

大勢の人々が目的地へ脱出するために通行証を求めて領事館で順番を待ちますが、ユダヤ人だけではなく違法移民として描写されます。ホテルで身を潜める親子が取締官に引き裂かれる様子は、過去や現在と言った時間軸とは関係無く惨いものだと物語ります。

同じ身の上である人々と交流し、そして恋に落ちるという流れには違和感が無いものの、危機迫る状況を演出後、マリーが安全を求めて脱出したいのか或いはしたくないのか、その真意や目的が今一つ明確で無かったのが少し残念でした。

主人公は、自分の意思とは無関係に成り行きから人違いをされ別人の身分を手に入れるゲオルクを演じたフランツ・ロゴフスキー。ホアキン・フェニックスを思わせる独特の雰囲気を持ち、一見成熟した容姿ですが32才と若いドイツ人俳優です。

ペッツォルトは、まだドイツが西と東に分かれていた時代に文学を学び、共産党であるアンナ・ゼーカースの著書を読んだのはずっと後になってからでした。教師だった友人からの勧めで『Transit』を手にします。

これまで書いた脚本は、みなゼーカースの影響を受けたとペッツォルトは語り、本作の原題『Transit』は、登場人物達が目指すアメリカ大陸とヨーロッパ大陸間、そして昨日と今日の間から人は抜け出せないと言う比喩を意味していると明かします。

また、1973年公開のロバート・アルトマンによる『ロング・グッバイ』やシャンタル・アケルマンの1994年公開『ブリュッセル、60年代後半の少女のポートレート』の2作を例に挙げ、設定は過去でも当時の世界を描いたと本作のモチーフを説明しています。

撮影する前は全く政治的な事は頭になかったペッツォルトですが、本作の記者会見で移民の数を制限するべきではないと語りました。冷戦が終わり統合を果たしたドイツ。そして中東から多くの難民を受け入れて来た現在のドイツ。

様々紆余曲折を経た自国を見つめ、過去と現在が共存するマルセイユを舞台にピアノやバイオリンを使い感情の起伏を織り込みながら流浪する民を描いた『Transit』。文学的な要素が色濃い独特の視点で演出され、観客を別の時間軸へいざなう作品です。

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