昨年北米で公開されたインディペンデント映画『ワイルドライフ』は、非常に高い評価を得て数々の賞を受賞。カンヌ国際映画祭では、記事を書くジャーナリストも席が取れない程注目を集めました。順風満帆だった家庭が崩壊して行く様を14才の少年を通して描く作品で、“仮面夫婦”の脆さを赤裸々に物語ります。監督は、個性派俳優で知られる『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・ダノが務めました。
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『ワイルドライフ』作品情報
タイトル:ワイルドライフ
原題:Wildlife
監督:ポール・ダノ
脚本:ポール・ダノ、ゾーイ・カザン
原作:『Wildlife』リチャード・フォード
製作:ポール・ダノ、ジェイク・ギレンホール、アンドリュー・ダンカン、アレックス・サックス、オーレン・ムーバーマン、アン・ロアク、リバ・マーカー
公開日:2018年10月19日(アメリカ)、2019年7月5日(日本)
出演者:ジェイク・ジレンホール、エド・オクセンボールド、キャリー・マリガン、ビル・キャンプ
『ワイルドライフ』概要
ポール・ダノにとって、本作が監督デビューとなります。実生活で親しい関係にあるゾーイ・カザンと脚本を共同執筆し、4年の歳月を掛けて完成させました。舞台は1960年のモンタナ州ですが、撮影は当時の雰囲気を残したオクラホマ州で主に行われています。原作は、ピューリッツァー賞作家リチャード・フォード原作の同名小説『Wildlife』です。
キャスト
『ブロークバック・マウンテン』のジェイク・ジレンホールが父・ジェリー、『17歳の肖像』のキャリー・マリガンが母・ジャネット役で、主要な役所・ジョーを演じるのは、オーストラリア人俳優『ヴィジット』のエド・オクセンボールドです。
『ワイルドライフ』あらすじ・ネタバレ
モンタナ州に引っ越して来たブリンソン家。プロのゴルファーであるジェリーは、インストラクターの仕事に就く。家族は円満で、14才の息子ジョーは、仲の良い両親に育てられ、新しい学校に馴染もうとしていた。
崩壊の序章
ある日、ジェリーは、クラブのメンバーに対する過剰な対応を避難され、突然解雇される。妻・ジャネットは、夫を責めず理解を示した。翌日、ゴルフクラブは不当解雇を謝罪し、ジェリーに職場へ復帰して欲しいと連絡を寄こす。
しかし、ジェリーは、プライドが許さず断ってしまう。えり好みして中々仕事を探さないジェリーに対し、生活を考える現実的なジャネットは、新居地で人と出会うチャンスという表現でジェリーを気遣い、パートタイムの仕事を探した。
また引っ越しをするのかと心配するジョーに、ジャネットは、以前も仕事を失った事があるが、ジェリーは必ず道を切り開くので、信頼するよう息子を勇気づけた。人を雇っていないと言われても食い下がるジャネットは、水泳を教える職を見つけた。
ジョーが自分も仕事を探すと言い出し、ジャネットは賛成する。しかし、ジェリーは、学校とアメフトの練習だけで十分だと反対。ジョーに決断させるべきだとジャネットが言い返し雰囲気がギクシャクした。その夜、両親の口論を聞きながらジョーは眠りに落ちた。
翌日、写真館を訪れたジョーは、アルバイトを申し込む。働いた経験は無いが、学ぶのは早いと主張し、店主に雇われる。ジェリーは、相変わらず無職だった。アルバイトを優先させるためアメフトを辞めたジョーは、学校の勉強にも遅れが出始めていた。
ある日学校から帰ると、ジャネットが目に涙を溜めている。ジェリーは、大規模な山火事と闘う団体に加わり、時給1ドルしか支払われない給金でありながら山へ行くと言う。雪が降るまでだと話すジェリーだが、命を落とす危険を心配するジャネットと口論になった。
ジョーは、荷物を積みトラックに乗り込む父を見送った。ジャネットは、もっと給料の良い仕事を探すため水泳教室を辞めるとジョーに言い、家賃の安い小さな家に引っ越すかもしれないと話した。
母親を辞める女
そんなある日、ジョーが学校から戻ると家の外に高級車が停まっていた。母が水泳を教えたウォーレン・ミラーが家に居た。ジャネットは、ウォーレンから車の販売店の仕事を紹介して貰うとジョーに話す。
ジョーは、水洗が壊れたトイレを修理する道具をバイトで貰ったお金で購入して直した。夕食を作らず煙草を吸い化粧が濃くなる母をしり目に、自分で買った缶詰で食事をするジョー。ジャネットは、翌日ジョーに学校を休ませ、車で山火事の現場へ連れてくる。
空が煙で濃い灰色に染まる中、車を停めたジャネットは、ジョーに外へ出てよく見ろと言った。山の上部で轟音と共に激しい炎が燃え上がるのを見つめるジョーに、ジェリーが何を重要だと思ったのか分からないとジャネットは呟いた。
帰りに寄ったレストランで、ジャネットは、ビールを飲みながら、ジェリーには恋人が居るので家を出たんだと思うと話す。ジョーは、父はそんなことをしないと言い返すが、何の経験も無いジョーに何が分かるのかとジャネットは八つ当たりした。
帰り道に住所を電話帳で調べたジャネットは、ウォーレンの家を見に寄った。お金持ちの家には見えないと独り語ち、ジョーを連れて家に戻る。翌朝、ジェリーから初めて電話が掛かってくる。ジャネットは家に居らず、ジョーが出た。
何時家に帰るのかと訊くが、ジェリーは学校の様子を尋ねるだけだった。ジョーは、ジャネットが職を得たと言っていたウォーレンの車の販売店を訪れるが、母は居らず、店員もジェネットを知らないと言う。
学校の授業を終えたジョーは、写真館で仕事をして帰宅。家に居た母に何処へ行っていたのかと訊く。販売店へ行っていたと答えるジャネットに、父から電話が有り、家族を恋しがっていたと報告した。
ジャネットの本性
ジャネットは、ウォーレンに夕食を誘われたので、ジョーに支度をするよう言った。背中の開いたドレスを着たジャネットを見たウォーレンは、美人コンテストの出場者みたいだと褒める。ジャネットはジョーの前で、ウォーレンにじゃれつく。
食事の席で、夫の文句を言うジャネット。ウォーレンは、ジェリーの行動に敬意を表すると話し、戻ったら仕事を世話すると笑顔を浮かべる。吉報だと捉えたジョーは喜ぶが、母はウォーレンが自分達の面倒を見てくれると微笑んだ。
ダンスの曲を掛けて欲しいと腰を振るジャネットに、ジョーは宿題があると言うが、母は全く意に介さない。私と踊れと無理矢理ジョーを立ち上がらせるジャネットは、チャチャチャと口ずさみながらウォーレンに流し目を送った。
ウンザリ顔のジョー。ジャネットは、ウォーレンに踊ろうと合図。にやけるウォーレンと手を取り合って体をよじる母を見て、ジョーはうつむいた。泊まって行けと誘うウォーレンに、ジョーは思わず自分が運転すると声を上げた。
ジャネットに自分のコート着るよう羽織らせたウォーレンは、ジョーの見ている前でジャネットにキスをする。ショックを受けたジョーは、目を反らせた。車に乗り込むと、ジャネットはコートを返して来るので車で待つようジョーに言って飛び出して行った。
戻らない母の様子を見に行ったジョーは、窓の外からジャネットがウォーレンと抱き合いキスをしている姿を目撃する。車で待つジョーの下に暫くしてジャネットが戻り、楽しい時間だったと息を弾ませ、無神経にジョーにも感想を訊いた。
学校帰りに写真館の仕事を済ませ、ジョーは1人缶詰のスープで食事を摂った。夜中に男の咳払いが聞こえて目を覚ましたジョーは、全裸のウォーレンがベッドに横たわる母の寝室へ入って行く所を見た。そして、2人は連れ立ってウォーレンの車に乗り込んだ。
窓からその様子を窺ったジョーは、両親の寝室へ行く。母の下着や服が散乱していた。サイドテーブルに置かれていたグラスに入った酒をジョーは一口飲んで顔をしかめる。物音がして寝室を出ると、ジャネットがいきなりジョーの顔を平手打ちした。
脅かすなと怒鳴るジャネットに、ウォーレンが何しに来たのかとジョーは尋ねる。関係ないと冷たい母親に、ジョーは、ウォーレンを愛しているのかと訊いた。ウォーレンは、状況を改善しようとしているが、自分は決意できないとジャネットは涙を流す。
何か良い案があればやって見るから教えてくれとジャネットは、ジョーに愚痴をこぼした。翌日、初雪が降り、ジョーは学校から急いで帰る。ジェリーが荷物を持って帰宅。森林火災をほぼ鎮火させる事に成功し、後は降雪で治まるとジェリーは報告した。
家族を捨てる時
ジェリーは良いニュースがあると笑顔を家族に向け、出会った人からの紹介で林業の仕事を見つけ、住宅も供給されると話す。しかし、ジャネットは、アパートを借りたので引っ越すと告げる。スペースは狭いが、もしジョーも来たければ部屋はあると続けた。
呆気にとられるジェリーとジョー。事情が掴めないジェリーに対し、自分だけの時間が要るとジャネットは言う。別れたいと本音を見せたジャネットに、ジェリーは相手が誰なのか訊く。ウォーレン・ミラーだとジャネットは答えた。
押し黙り下を向くジョーの頭の上で、ジェリーとジャネットはが怒鳴りながら口論する。その後、家を出てジョーにパイを食べさせるジェリーは、ジョーからウォーレン宅で夕食をした事、そしてジャネットとウォーレンが自分達の家で一緒に居た事も聞き出す。
怒りに駆られたジェリーは、電話帳でウォーレンの自宅住所を調べ、ジョーを車に乗せたままウォーレン宅へ行く。灯油を玄関先に撒き、ライターで火をつけた。酔ったジェリーのズボンに火が付き、階段を転げ落ちた所をジョーが必死で火を消す。
見知らぬ女性と家を飛び出してきたウォーレンがジェリーを殴ろうとするのを、ジョーが必死に止める。ジャネットは何処だと怒鳴るジェリーに対し、ウォーレンは知るわけがないだろうと怒鳴り返し、刑務所行きだと吐き捨てた。
何もかも嫌になったジョーは、その場を去り1人雪の積もった道を走る。それでも父を心配したジョーは、警察署を訪れた。ジョーが家に戻ると、うな垂れたジェリーとジャネットが大丈夫かと尋ねた。
ジェリーは、ウォーレンと話し合い、この一件は水に流すことになったと息子に話す。これからどうなるの?と真剣に訊くジョーに、2人は真面な返事が出来ない。
ジョー
その後、ジャネットはオレゴン州のポートランドへ引っ越し、ジョーは父と平穏に暮らした。ある日、ジャネットがジョーに手紙を寄こし、会いたいと言ってくる。父に車を借りたジョーは、バス停まで母を迎えに行った。
ジェリーが用意した食事で3人はテーブルを囲んだ。ジェリーは営業の仕事に就き成功、ジャネットは教職に就いていた。ジョーは、学校で成績優秀者の名簿に乗り、続けていた写真館のアルバイト先で昇進し、ポートレートを任されていた。
写真館へ寄って欲しいとジョーに頼まれたジェリーとジャネットは、翌日写真館を訪れる。2人をスタジオに案内したジョーは、家族写真を撮りたいと言う。水色の背景とカメラの間に3脚の椅子が並べてあった。
髪をセットしてないと嫌がるジャネットに、ジョーは自分の為に撮りたいと話す。ジョーの案内で両脇の椅子に座るジェリーとジャネットは、居心地の悪そうな表情でお互いを見つめた。真中に座ったジョーは、カメラのシャッターを切る手元のボタンを押した。
『ワイルドライフ』を観た感想
14才の子供を育てる夫婦がある日突然親を辞める物語を息子・ジョーイの視線を通して描いた『ワイルドライフ』。ジェリーが森林火災の消火に当たる出稼ぎで山入り。妻が働き、息子までアルバイトをしている中、1時間1ドルの給金の仕事を選び出て行きます。
残されたジャネットは、今更若くして結婚した事を後悔し、金持ちという理由だけで年配の男性を誘惑しようと必死。息子を引きつれ食事に出かけ、一緒に面倒見てくださいと示唆する浅ましさに加え、自宅に連れ込んで息子の生活など無視して夜外出。
14年間外目には順風満帆で“良い家庭”を築いていても、仮面夫婦は脆く崩れ、ジョーは一気に「ワイルドライフ」に放り込まれます。母の真の姿を見て当惑して傷つき、それでも許す少年・ジョーが唯一成熟した存在です。
ワイルドライフは、本来は野生動物という意味です。劇中、ジェイク・ジレンホール扮するジェリーが妻の不貞を知り、ジャネットと口論する場面で家族を捨ててまで選んだ彼女の生活をそう呼称しています。
しかし、映画のタイトルが意味するのは、物語をジョーの視点で捉えて展開させる事でも想像できる通り、無理矢理大人にならざるを得ないジョーが直面する環境を示しています。現実世界は、14才の少年にとって正にワイルドライフだったのです。
本作の監督と脚本を兼務した『ラブ&マーシー 終わらないメロディ』のポール・ダノ、共同執筆した『ルビー・スパークス』のゾーイ・カザン、そしてジャネット・ブリンソンを演じた『17歳の肖像』のキャリー・マリガンは、10年来の友達です。
リチャード・フォード原作の『ワイルドライフ』を読んだダノは、内容が幼少時代の自分の経験と酷似していた事、そして文体の美しさに魅了され、何度も読み返したと語ります。自身の両親も離婚し新しい町へ引っ越した時、ダノもジョーと同じ14才でした。
劇中圧巻の演技を見せるジョー役のオーストラリア人俳優エド・オクセンボールド。多くの沈黙する場面で、オクセンボールドの表情はジョーの心情を手に取るように伝え、強烈な印象を残しています。無声映画のスターの様だと絶賛されました。
12才の時にジュリアン・アサンジの幼少時代を演じた短編作品で、オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞でヤング・アクター賞にノミネートされ、ナイト・M・シャマランの『ヴィジット』にも出演しています。
ジェイク・ジレンホールやキャリー・マリガンと相対しても、台詞の少ないオクセンボールドの方が明らかに抜きんでる演技を披露。若干15才にして、ジョー役を見事に演じた才能溢れる俳優です。
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