本作は1992年に起きたロサンゼルスの暴動を巡り、影響を受けた市民を描く。移民の国と呼ばれるアメリカだが、現在も尚人種差別問題を抱えている。
トルコ系フランス人の監督・デニズ・ガムゼ・エルギュヴェンが自ら直面した差別をきっかけに力強く描いた作品で、実際にロサンゼルスへ何度も訪れて取材した後に撮影をした。物語の主人公は、実在の人物である。
Contents
『マイ・サンシャイン』の作品情報
タイトル:マイ・サンシャイン
原題:Kings
監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
脚本:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
製作:チャールズ・ギルバート、ヴィンセント・マラヴァル
公開日:2017年9月13日(カナダ)、2018年4月27日(アメリカ)、2018年12月15日(日本)
出演者:ハル・ベリー、ダニエル・クレイグ、ラマー・ジョンソン
『マイ・サンシャイン』概要
監督と脚本を兼務するデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンは、本作を制作するために11年費やした。資金を獲得できなかった事が主な要因だが、監督デビュー作の『裸足の季節』が第88回アカデミー賞外国映画賞部門にノミネートされて注目が集まり環境が一転。ニューヨークに本拠を置くメイヴン・ピクチャーズと2016年に公開された『ハクソー・リッジ』等を手掛けた中国系映画制作会社・ブリス・メディアが出資した。
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キャスト
007シリーズのジェームス・ボンド役で知られるダニエル・クレイグが出演。華麗なスパイ役とは違い、ロサンゼルスのサウスセントラルに暮らす貧しいイギリス人作家を演じる。主演は、『チョコレート』でアカデミー賞主演女優賞を獲得したハル・ベリー。2人は2002年公開の『007 ダイ・アナザーデイ』で共演した。
『マイ・サンシャイン』あらすじ・ネタバレ
人種間の対立
ラターシャ・ハーリンズは韓国系アメリカ人が営む食料品店に入り、オレンジジュースを掴んでバックパックのポケットに入れてレジに向かう。万引きと勘違いした店主がハーリンズの腕を掴むと、腹を立てたハーリンズは店主を殴ってしまう。
それに反応した店主は、普段から自己防衛のために常時忍ばせていた拳銃を取り出し、背後からハーリンズの後頭部を撃ち射殺。
床で倒れたハーリンズの手にはお金が握られていた。普段からこの地域では住人の黒人と食料品店を経営する韓国人の間で小競り合いが頻発しており、事件は注目された。
窓ガラスを割られた事に怒ったオビーは、窓からショットガンを撃つ。隣に住むミリーは、保護して面倒を見ている子供達と一緒にテーブルの下へ潜った。
1991年当時に放送されたニュース映像。事件の当事者でハーリンズを射殺した店主の裁判と店内に設置されていた監視カメラの様子を伝える実況が流れる。
陪審員は過失致死罪と認定し、最長16年を求刑したが、裁判官は執行猶予を言い渡し500ドルの罰金を課して結審。禁固刑とならない事を不服とした黒人市民は憤った。
ロドニー・キング事件
そんな中、同年3月1日、ロドニー・キングが複数の白人警官から長時間にわたり暴行を受ける事件が起きた。無抵抗で地面に倒れたキング氏を尚も執拗に暴行する様子を近隣住人がビデオに撮っており、メディアは大きく伝えたのだった。
ロサンゼルス暴動が勃発する7週間前に時間は遡る。
早朝に起きたミリーは、ロドニー・キング暴行事件を報道するニュースを聞きながら、その日販売するケーキ作りをしていた。次々に焼き上げたケーキを手際よく包装しながら子供達を起こす。
小さな子供達1人1人にキスをしながら抱きしめ声を掛けて回り、最後に最年長・ジェシーの部屋を訪れた。ミリーはケーキの配達へ出るので、学校へ行く子供達の世話をするよう頼む。
放課後、校内をジョギングするジェシーは、校長と言い争うニコルに出会う。通りかかるロサンゼルス警察のパトロールを嘲笑し、ロドニー・キングを連呼するニコルに集まった生徒達が同調。
朝、ミリーの留守中にお腹を空かせた子供達に起こされたジェシーは、急いでポップコーンを作るが、電話に出ている間にポップコーンがコンロの上で燃え上がってしまう。
急いで7人の子供達全員を家の外へ避難させたジェシーは、消火器で火を消した。再び子供達を家の中に入るように引率。
生まれて間もなく引き取っていたジョーダンの母親が刑務所を出所したため送り届けるようにと言う電話の内容をジェシーが伝えると、ミリーは生まれた時から育ててきたジョーダンを手放したくないと泣き出す。
ジョーダンを送る車中から、壁に両手を挙げて立たされているウィリアムを見かけたミリーは、母親の振りをして警察官の目前からウィリアムを連れて車に乗せ走り去った。
ウィリアムが知人の息子だと気付いた事もあるが、些細な事で圧力をかける警察に対するミリーのささやかな抵抗だった。
既に手一杯になっていたため、ジェシーにもうこれ以上は子供を増やさないと約束していたが、ウィリアムの母親が刑務所に収監された事で暫く面倒を見たいとミリーは言う。
サウスセントラルに住むマイノリティ・オビー
ある日子供達を連れて出かけたミリーは、知人を近くの商店前で見かけて言葉をかけた。商店を営む韓国系アメリカ人が出てきてその知人を「売春婦」と呼ぶ。
血気盛んな性格のウィリアムは、車から飛び出し店主に向かって怒鳴り始めた。直ぐに割って入るジェシーは、ミリーにウィリアムが短気で粗暴な行動を繰り返すと忠告。
そこへ、隣人のオビーが車で乗りつけ店主の肩を持ちウィリアム達と口論になると、ミリーがウィリアムを庇いオビーと喧嘩に発展した。
オビーは、子供を制御できないなら福祉課に通報するとミリーに言い放つ。店主は、オビーに続きライフルの引き金を引くとミリー達を脅す。
ミリーは、オビーに中指を立てながら車に乗りこむ。幼い子供が「この辺に住む白人はあいつだけだ」と言いオビーを罵った。
ロドニー・キングの裁判中継で警察官の弁護士が、利き足ではない方の足でキング氏を蹴ったのは、怪我をさせる意図が無かったと言う弁論を聴きながらウィリアムが苛立つ。
その時、白人である事を中傷されて憤ったオビーが大声で騒ぎ、ウィリアムはランプをオビーに投げようとするなど歯止めが効かない行為に出て、ジェシーは必死に止める。
ジェシーの初恋
ミリーが仕事から帰宅すると、うんざりしたジェシーは1人になりたいと言い家を出た。近くの商店でスナック菓子を見ているとニコルが堂々と万引きをしている所を目撃。
怒った店主がニコルを追いかけるが、駐車場にたむろしていた黒人男性2人がニコルをかばう。店主は韓国語で罵ると店に戻って行く。ジェシーは、ニコルには行く所が無いと知った。
自宅へニコルを連れて来て自分の部屋で寝かせたジェシーは、破天荒ながら寝顔はまだ幼く美しいニコルに魅かれていた。
翌日、ジェシーは、刑務所に収監されているため留守中のウィリアムの母親が住むアパートへニコルを連れて行き、暫くそこで寝泊りするようにと案内した。
一方、ウィリアムは、常にお腹を空かせている子供全員を引きつれてスーパーマーケットへ行き、持てるだけのお菓子を万引き。家に戻りたくさんの食べ物を前に子供達は大喜び。
ジェシーは、道行く車の窓を洗浄してお金を稼ぎ、食べ物をニコルに買ってやり、ミルクシェイクを飲みたいと聞いて自分が大切にしていたウォークマンを質屋に入れた。
ミリーはアパートの裏庭で子供用のビニールプールに水を張りみんなで遊ぶ。8人の子供達とミリーは大はしゃぎで楽しむ。
ニコルがアパートの花壇に花を植えていると逃走車を追いかけるパトロールカーが突っ込んできてゲートを壊し花壇に乗り上げた。しかし、バックした警察は直ぐに走り去っていく。
連日報道されるロドニー・キング事件で緊張が高まるロサンゼルスのサウスセントラル。ウィリアム達はある晩、警察署を襲撃し駐車していたパトロールカーのタイヤをパンクさせた。
夕飯の準備を手伝わない子供達にお仕置のため、ミリーは暫く外に立たせておく。ほとぼりが冷めた頃、呼び戻すために外へ出ると子供たちの姿が無い。
血相を変えたミリーは、車で町中を探し回った。そんな頃、暗くなっても外に居た子供達を見兼ね見たオビーは、自宅で宅配ピザを注文し子供達の面倒を見ていた。
大音量でジャズをかけ子供達と一緒に踊り楽しい時間を過ごしている所へミリーが戻り、声を聞きつけてオビー宅を訪れる。ミリーはそれまでとは違うオビーを見直した。
ロサンゼルス暴動
1992年4月29日、ロドニー・キング事件の裁判で、起訴されていた被告4人の警察官が全員無罪になったとメディアが一斉に報道。
学校から帰宅途中のジェシーは、黒人達が警察の車を襲う所を目撃した。車から飛び出してきた警察官に向かって黒人たちが銃を撃つ。
ミリーは、近所の住人から市民に向かって警察が発砲しているのを見たと聞く。まだ家に戻らない子供達を心配したミリーと隣人達が探しに出た。
前方に知人の息子が警官達に取り押さえられている所に遭遇。小競り合いになり、警察はミリーを逮捕し手錠をかけてパトロールカーに押し込んだ。
ニコルの様子を見に来たジェシーは、ウィリアムとニコルが関係を持っているのを目撃しショックを受けた。そこへ、ウィリアムの友達が訪れ、ロドニー・キング事件の裁判で4人の警官が無罪になったので報復しようと言う。
ロサンゼルスの暴動が勃発し、街中の道路に怒りを爆発させた人が溢れ大混乱に陥った。アジア人男性が運転する車をウィリアム達が取り囲み、運転手を引きずり出す。
無抵抗の運転手に暴行を加えるウィリアム達を見かねたニコルが止めに入った隙に、運転手が逃げ出した。執拗に後を追いかけるウィリアムの後を追いかけるニコルとジェシー。
追いついたニコルを突き飛ばしたウィリアムを見たジェシーは、道に落ちていたガラスの破片を掴んでウィリアムの腹を刺してしまう。
瞬く間に出血して行くウィリアムを抱えてニコルは泣きだす。ジェシーはニコルに傷口を強く押さえて出血を止めるように言うと、助けを求めるために走り出した。
その頃、パトロールカーに乗せられていたミリーは、サウスセントラル一帯が制圧できず態勢を整えるため周辺に居る警察官に直ぐ脱出するよう呼びかける警察無線を聞く。
ミリーと一緒に逮捕された知人の息子は、持っていた紙切れに火をつけて移送する警察官を脅し始めた。警察官は車を止めて2人を車から降ろさせるとその場を走り去った。
知人の息子はその場を逃走し、手錠をかけられたままのミリーは一人取り残された。ともかく自宅に向かい小走りになるミリー。
ジェシーは公衆電話で救急車を要請する。しかし暴動が激しくなり緊急車両は警察の護衛なしでは派遣できない状況で、警察はもはや応答していないと交換手は言う。
危ないので外出を止められ自宅のテレビ報道を見ている幼い子供達は、暴徒化した市民達による強奪シーンの様子にはしゃいだ。
ホストマザー・ミリー
帰宅途中のオビーは、足早に歩くミリーを見かけて車を止めた。自宅に戻ると3人の子供達の姿が見えない。しかし、お腹を空かせた幼児達が大泣きしており、ミリーは慌てて哺乳瓶にミルクを入れるが手錠で思うようにいかない。
オビーが金槌を持ってきて、ミリーの手錠を中心から切る事に成功した。3人の子供を探すためにミリーは家を飛び出し、オビーは幼児と共にその場に残されてしまう。
家を出た3人は、ファストフード店前に他の群衆と一緒に居た。店長が現状下で店を破壊すれば二度と再建されないと呼びかけ、無料で店の食べ物を配るので落ち着くように促す。
乗り捨てられた車を発見したジェシーとニコルは病院へウィリアムを運ぶため、街中を走るが、あちこち火の手が上がり道は煙に覆われ殆ど視界ゼロの状態だった。
開けた駐車場を見かけて乗りつけると、そこは警察署で屋上から警察官達に発砲を受け何とか脱出。病院を探し続けるが、大量の血を失ったウィリアムは死亡してしまう。
ハンバーガーやシェイクを食べたミリーの子供達は、他の子供と一緒に火炎瓶が投げられている様子をまるで花火を見るかのように楽しんでいた。
オビーは、幼児の紙おむつを替えようとするが上手く行かない。テレビでは、乗り捨てられた消防車の脇で女性が男性に殴られ道に倒れ込んだまま動かない空撮映像を映す。
ミリーが自宅に戻り子供が見つからなかったとオビーに話した矢先、レポーターにインタビューを受ける子供達の様子がテレビで流れた。
中継先に向かったミリーとオビーは、大型店から商品を略奪する大勢の人に紛れて洋服を抱える3人を見つける。1人が駆け寄ってきて、ミリーのために持ってきたと話す。
盗むなどもってのほかだと怒るミリー。そこへ駆けつけた警察官は、ミリーの手首に切られた手錠を見て色めき立ち銃を向けて来た。
オビーとミリーが説明するものの聞く耳を持たない警察官は威嚇射撃。しかし、緊急応援無線を受けた警察官は、2人に街灯を抱かせて手錠で拘束するとその場を去った。
周辺で爆発音が聞こえる中、オビーはミリーのズボンを切って縄を作り靴を先に結ぶ。街灯の天辺に上手く投げて引っかけると、オビーは街灯を上って行く。
しかし、腕を通した後、オビーは力尽きて落下。拘束を解いたオビーを見てミリーは安堵するが、待ちくたびれた子供達が車のガスペダルを踏んで駐車場を走り障害物にぶつけた。
ウィリアムの遺体を乗せたジェシー達は、何処に居るのか掴めず街を放浪する中、ショットガンを当たり構わず撃っている人等異様な光景を目の当たりにしていた。
夜明けになりやっと自宅に戻ったジェシーは、大人しくている幼児達を毎朝ミリーがする様に見て回りキスをしていく。帰宅したミリーは、ウィリアムの体を抱いて泣くニコルを発見。
動揺してウィリアムの体に触れるミリーの背中をオビーは優しく摩る。早朝のロサンゼルスは、鎮火した火事で至る所に白煙が空高く上っていた。
『マイ・サンシャイン』を観た感想
1992年ロサンゼルスの暴動が起きた時の街の様子は、劇中にある通り非常に危険だった。観光客が多く訪れるロデオ・ドライブ近辺でも交差点でショットガンを撃つ人が居た。
実際、暴動はロサンゼルスだけに留まらず、カリフォルニア各地で起きた。劇中に描写される通り、ロドニー・キングの裁判結果に対し市民はそれまでの怒りを爆発させたのである。
その後のロサンゼルスは一見平穏を取り戻したように見えたが、事あるごとに目に見えない緊張は高まり、例えばO・J・シンプソンの裁判が始まると白人と黒人が再び分裂。
ロサンゼルスは、ハリウッドやビバリーヒルズ、そしてサンタモニカの浜辺等が在り、華やかな印象がある街であるが、実際は弱肉強食であり貧富の格差が激しい。
しかし、多くの州よりカリフォルニア州の黒人住民の人口比率が多いため、よっぽど発言力がある。物語で描かれた黒人社会の絆の強さは、当時のサウスセントラル特有だ。
本作は、建前の無いそのままのロサンゼルスをよく捉えた作品。同じ国民でありながら扱われ方が異なり、日々不当な目に遭い向ける所が無い怒りを常に抱えている。
トルコ系フランス人監督・デニズ・ガムゼ・エルギュヴェンは、生後半年から住んでいるにも拘らず2度市民権の申請を却下された事をきっかけに、根強い人種差別に注目。
そして、数か月後に起きたフランスの暴動を機に本作の制作を決意したと語る。『裸足の季節』で脚光を浴びて映画制作は可能になるともう一つ嬉しい知らせが舞い込む。
自分から営業をかけるダニエル・クレイグは、同映画を観た後非常に感銘を受け、エルギュヴェンに連絡を入れる。今後機会があれば是非自分を考慮して欲しいと申し入れた。
ニューヨーク在住のクレイグは、現大統領のせいで人種問題は危うい状況だとインタビューで語った。ニューヨークはアメリカでも一番様々な人種が集まる街である。
そのニューヨークで人種差別的な言動は、全員を敵に回す雰囲気であったが、現在はそのメルティング・ポットでさえ人々を隔てる見えない壁が立ちはだかっている様だ。
また、クレイグは、割合裕福な家庭に育ったものの、『007』のボンド役までは金銭的に苦しい生活だったため、オビーが暮らす環境を理解できると明かした。
エルギュヴェンは本作の制作が決まるとクレイグを直ぐキャスト。ハル・ベリーは、映画の内容を知り母となった自分なら子供7人を育てるミリー役を演じられると確信したと話す。
本作で描かれた警察車両がアパートのゲートに突っ込み花壇を破壊した事やファストフードの店長が市民に食事を無料で配り店を守ったエピソードは、全て事実である。
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